モバイル・ネットワーク・コンピューター白書

1997年6月23日

緒言
 ネットワーク・コンピューティングの成功、Java(*)アプリケーションおよびアプレットの利用拡大、 ハードウエア、ソフトウエア、コミュニケーションにおける最近のテクノロジーの進歩を受けて、 1997~98年にはネットワークとの接続機能を持つ、広範な分野にわたるモバイル機器が急成長すると予想されます。 そうしたネットワーク・コンピューター(NC)機器またはアプリケーションの具体例として、 ハンドヘルド・パソコン、個人情報管理(PIM)や、文書作成や表計算、 グラフィックスなどの個人ユーザー向けアプリケーション、ビデオ会議、データ会議、電子メール、 インターネットあるいはイントラネットへのアクセス、 ページング、電話通信接続、「スマート」電話など連係アプリケーションがあります。

適用範囲
 1996年5月、アップル・コンピュータ、IBM、ネットスケープ、オラクル、 サン・マイクロシステムズを含むコンピューター・ハードウエアおよびソフトウエア企業のグループは、 ネットワーク・コンピューターとして認識、登録されている特定の機器を規定する一連の規格に合意しました。 その骨子はすでに、「NetworkComputer Reference Profile 1.1(NCRP)」において定義されています。 現行のNCRPがモバイルNC機器への適用に全く適していないというわけではありませんが、 この種の機器に固有の多くの課題に対応できていません。モバイルNC機器に対する関心や要求が高まっている中、 モバイル機器固有の課題にきめ細かく対応できるよう、適用範囲の拡大や改訂が必要とされています。
 本稿はモバイル・ネットワーク・コンピューターの必要条件とそのための適切な規格について論じます。 「モバイル・ネットワーク・コンピューター・リファレンス仕様(MNCRS)」は、 モバイルNCを適用範囲に含めた「NCRP」の拡張版です。 すなわち「MNCRS」には、既存の「NCRP」を取り入れつつ、 これまでに生じたテクノロジーや市場の進歩に応じた様々な追加項目や改善項目が盛り込まれています。

目的
 「MNCRS」の合意にあたって、スポンサー企業各社には、 モバイル・ネットワーク・コンピューター規格に対する今回のような合意がないと、 市場が分裂状態に陥る可能性があるという認識がありました。 同時に、「MNCRS」の目的は、以下に示すように、先に設定された「NCRP」から変更されていません。
「こうした規格の様々な側面が導入されるネットワーク接続機器は、 今後、さらにバラエティーに富んだものとなるでしょう。 消費者、開発者、メーカー、企業、教育機関、サービス・プロバイダーその他が、 複雑にして時に錯綜するこの分野に参画するようになるにつれ、広大なアプリケーション基盤の構築、 相互運用性、単純で統一性のあるシステム管理、エンドユーザーにとっての使い易さ、 低価格化等々を促進する一連の共通ガイドラインができるならば有益でしょう」

 「NCRPは、パソコンを初めとする広範なスケーラブル・ネットワーク・コンピューティング機器において、 一般的かつ広く利用されている特色や機能の共通基準を提供することを狙いとしています。 NCRPにおける仕様は、誰でもが運用できるようなオープン標準になることを目指しています。 その骨子は、多様なNC間の相互運用性を奨励するとともに、 規格内の機器上で動作する広範なアプリケーション基盤の開発促進を目指すことにあります。 その枠組みはまた、コンテンツ・プロバイダーやサービス・プロバイダーが各種アプリケーションやその他のインターネット・コンテンツを設計、 構築するためのガイドラインとなることを意図しています」
(「Network Computer Reference Profile、1996年5月」より)

要件
 今日あるNCの大半は、「安定した」ネットワーク接続、妥当な帯域幅(LANなど)、 高解像度ディスプレイ(VGA/SVGA)を備えます。モバイルNCの特性として、 接続モードでも非接続モードでも動作可能なよう、必要最低限、低周波数帯域での接続やモバイルNC専用の低解像度ディスプレイが求められます。
 このようにモバイル機器には、帯域幅、スクリーン解像度(画面の表示方式)、消費電力、 サイズにおいてLAN接続NCに比べより多くの制約があります。 さらにモバイルNCは、(有線または無線接続を介した)接続および非接続の両環境におけるサーバー・データ・アクセスを扱い、 整合性を確保しなければなりません。 非接続モードは、ホスト・コンピューターとの接続が不可能または必要でない時に、 有用な作業を遂行するのに必要とされます。 非接続モードでの操作やデータ複製、サーバーとの整合性確保のためには、 一貫性のある記憶機能がモバイルNCに必要になります。 こうした記憶機能はエンドユーザーから見て透明でなければなりません。

 現用の「NCRP」と同様、「MNCRS」は、モバイルNC機器の導入に当たり多様な選択肢が提供されているように、 マイクロプロセッサーやOSの選択に関して中立的であるように考えられています。
「MNCRS」で対応が求められている主な要件を以下に紹介します。

  • 比較的低速なネットワークや、信頼性に劣るネットワークでの接続
  • 「非接続」モードでの操作を例外的ではなく、原則とする状況
  • 従来のデスクトップ機よりバラエティーに富んだ製品やネットワーク接続に対するサポート
  • 使い易さと管理の容易さ
  • 導入・運用費用の低減

モバイルNCの分類
 モバイルNC機器は次の3種類に大別されます。 (ただし、MNCRSは第1カテゴリーに重点を置いています)

  1.  「プロフェッショナル・アシスタント」は、様々なアプリケーションを持つ豊富なJavaコンテンツをフルにサポートする機能を持ちます。 このタイプのモバイルNC機器は、非接続モードでも使用できるだけでなく、 ファイル更新やアプリケーション更新のためのホスト・サーバーとのレプリケーションをサポートします。 また、データベース・アクセス、電子メール、印刷、ディレクトリ・サービス、 管理機能、既存の企業アプリケーション(3270アプリケーションなど)へのアクセス、 セキュリティー、WWWブラウザー機能など様々な生産性向上アプリケーションを用いて豊富なJavaコンテンツをサポートできます。 この種の機器は、移動性や非接続モードでの操作における運用の柔軟性を新たに加えたフル機能のNCとなるでしょう。

  2.  第二のタイプのモバイルNC機器は、プロフェッショナル・アシスタントに比べ機能数を抑え、 主に「情報アクセス」機器として性格づけられるものです。 WWWブラウザー機能や基本的な電子メール機能を持つとともに、 Javaアプレットに対して限定的なサポート(比較的パフォーマンスが低く、メモリー消費が多い)を行います。 ネットワーク接続への依存度は相対的に高くなりますが、 一部の機能については非接続モードで操作できます。 この種の機器は、幅広い種類のサーバー、サービス・プロバイダーとのコミュニケーションや相互運用を実現します。

  3.  第三のタイプのモバイルNC機器は、きわめて基本的なメッセージング、ページング、 電信電話機能を持つ「ベーシック」機器です。オフィスとの連絡を絶やせないビジネスマンを対象にしています。 限定的で基本的なブラウザー機能を持ちます。 ユーザーはモバイルNC機器が提供する一連の共通機能を利用することができます。 例えば、サービス・プロバイダーは、基本的なコミュニケーションや相互運用性を維持しながら、 さまざまなサービスを提供することができます。 この種のモバイルNC機器は、カストマイズされたソフトウエアや特定業種向けに特化したアプリケーションに適した設計がなされています。
     「MNCRS」は、当初、プロフェッショナル・アシスタントについての詳細仕様の策定を行い、 順次、第二、第三のタイプについても策定していきます。
     プロフェッショナル・アシスタント・モバイルNC機器は、仕事の性格上、移動・旅行が頻繁で、 遠隔地での業務が多い専門職のユーザー向けにデザインされています。このタイプのモバイルNCは、 いうなれば「シン・クライアント」機器です。 LAN経由でネットワークに接続した時、オフィスの机上に置かれたネットワーク・コンピューターと同等の機能を提供します。
     「接続」モードでは、ユーザーはカレンダー、電子メール、ワープロ、表計算、WWWブラウザー、 端末エミュレーションなどの生産性向上アプリケーション用にプロフェッショナル・アシスタント・モバイルNC機器を使用します。 このタイプの機器は、PCの代用品となることを意図していないので、ユーザーが直接管理したり、 アクセスできる自前の記憶装置やファイルを持ちません。

     現在のPCが持つ機能のすべてを必要としているユーザーは、それ程多くはありません。 モバイルNCは従来のPCに比べ、安価で運用経費が安く、セキュリティに優れ、 小型軽量による利便性を持っています。こうした特色は、ハードディスクを削除したことによって実現しました。 プロフェッショナル・アシスタントとして設計されたモバイルNCは従来のPCに比べ、 軽量で消費電力も少なくてすみます。

操作モード
 モバイルNCには3種類の操作モードがあります。

  1. LANなどの高速(Mbpsクラス)ネットワークを介した完全接続モード。 ネットワークを通じてコードやデータにアクセスできます。 このモードは通常、OSカーネルの新しいアプリケーションやバージョンなど大幅なプログラムの更新や入れ替えに用いられます。 このモードでは、デスクトップNCと同じ機能を発揮することができます。

  2. 低速のネットワーク(Kbpsクラス)を介した接続モード。 ネットワークを通じたデータ・アクセスはできますが、 コードは選択的にダウンロードされるのが普通です(例えば、Javaアプレットを経由して)。 機器に付属する記憶装置に依存しながら、 プリインストールした主要アプリケーションやキャッシュ・メモリーに保存したJavaアプレット、オン・デマンドでネットワークからダウンロードしたアプレットを稼動させます。

  3. ローカル・アクセスだけができる非接続モード。 このモードにあるときは、接続が適切に確保されるまで、 クラアント上でもサーバー上でもデータを待機状態に置くことができます。 機器に付属する記憶装置に依存しながら、プリインストール・アプリケーションやネットワークとの接続を切る前にキャッシュ・メモリーに保存したアプレットを動かします。

 持ち運び可能で、(アナログ電話回線を使うなどして)遠隔接続したり、 付属の固定記憶装置にプログラムを記憶することはできますが、非接続時にはソフトウエアを稼動できず、 データ・アクセスのためには必ず接続状態にしなくてはならないNCを利用する場合もあります。

知的所有権
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