ギガビット級の大容量化に向けた新型MRAM素子の開発について

2007年11月06日


垂直磁化方式のMTJ素子で世界初動作

 当社は、磁性体メモリMRAM*1をギガビット級に大容量化するための要素技術として、微細化に適したスピン注入磁化反転*2技術と素子寸法を大幅に削減できる垂直磁化方式*3を組み合わせた新型MTJ*4素子を開発しました。新技術については、垂直磁化で動作する世界初の成果として、米国で開催中の磁気記録に関する国際会議3M*5で本日(現地時間)発表しました。

 スピン注入は、電子スピンの作用で磁化反転させる記録方式で、書き込み電流を抑えて微細化を実現できる有力技術として開発が進展しています。一方、垂直磁化方式は、反磁界の影響を受けにくい垂直方向の磁化回転を用いることで、さらに書き込み電流を数十分の一まで低減できる技術ですが、膜界面に必要な平滑性の確保が非常に難しく、開発は困難とされていました。

 今回当社は、スピン注入、垂直磁化の原理を踏まえて材料やプロセス全般を最適化するとともに、性能を確保する上で特に重要な界面部分を中心に、素子構造の改善を実施しました。
 具体的には、記憶メディアで使用実績があるコバルト鉄系で十分な不揮発性を持つ材料を記憶層に採用し、絶縁層・界面層はそれぞれ酸化マグネシウム(MgO)・コバルト鉄ボロン(CoFeB)を用いていずれも1ナノメートル前後の極薄に形成し、各層を極めて平滑な界面で接合しました。
 この構造で形成した素子について、安定動作することを確認したものです。

 本技術は、スピン注入技術と垂直磁化方式の双方のメリットを活かして、ギガビット級の大容量MRAMに道を開く重要な成果と考えられます。今後当社は、よりスピン注入に適した材料の開発や、集積化に必要なばらつき低減技術などの開発を続け、数年以内に各要素技術を統合した基盤技術として確立を目指します。
 なお、本技術の一部は、NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託事業「スピントロニクス不揮発性機能技術プロジェクト」として開発したものです。

*1 MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory):磁気抵抗変化型ランダムアクセスメモリ
*2 スピン注入磁化反転:磁性体で絶縁膜を挟んだトンネル磁気抵抗(TMR)素子に、電子スピンの方向を揃えた電流を流して磁化を反転させる技術。従来の磁界書き込み方式では、微細化するほど書き込み電流が増大するが、スピン注入方式では逆に微細化するほど書き込み電流を低減できる。
*3 垂直磁化方式:磁性層に垂直方向の磁化を記録する方式。従来の面内磁化方式に比べ、磁化反転時のエネルギーレベルが低く、少ない電流で書き込むことができ、それに応じて選択トランジスタも小型にできる。HDDで大容量化のために採用されているが、MRAMで実証されたのは今回が始めて。
*4 MTJ素子(Magnetic Tunneling Junction):MRAMの記憶素子。複数の磁性層で絶縁層を挟む積層構造でTMR効果を利用する。
*5 3M:Conference on Magnetism and Magnetic Materials。11月5日から米国フロリダ州で開催。

開発の概要

(1)素子構造

開発の概要

(2)動作検証図

開発の概要
[左図] 素子に電圧パルスを与えて書き込み動作をした後の素子抵抗特性。正方向、負方向それぞれの閾値を境に素子抵抗が高低の2値にはっきり切り替わることを示している。
[右図] 素子に垂直方向の磁場をかけた場合の素子の抵抗特性。記憶層と固定層の磁化方向の組み合わせに応じて素子抵抗が高低の2値にはっきりと分かれていることを示している。

(3)素子の主要特性・仕様

素子の主要特性・仕様

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