ニュースリリース

世界最高の低消費電力性能を実現した新方式の不揮発性磁性体メモリ(STT-MRAM)を開発

― 高性能モバイルプロセッサの消費電力を3分の1に低減 ―
2012年12月10日

 当社は、スマートフォンやタブレットなどに搭載されているモバイルプロセッサ用キャッシュメモリ向けに、世界最高注1の低消費電力性能注2を実現した新方式の不揮発性磁性体メモリ(STT-MRAM注3)を開発しました。新開発のSTT-MRAMは、世界で初めて注1、キャッシュメモリに適用されているSRAMよりも低消費電力での動作を実現しました。さらに、新型STT-MRAMのキャッシュメモリを搭載したプロセッサ用の高精度シミュレータを開発し、実際にプロセッサ上でソフトを動作させた際の消費電力が、標準的なモバイル向けプロセッサと比較して3分の1程度に低減できたという計算結果を示しました。

 今回開発したのは、垂直磁化方式注4のSTT-MRAMをベースに、メモリ構造を改良すると同時に、30nm以下まで素子の微細化を進めた新方式のSTT-MRAMです。従来のSTT-MRAMでは、省電力化と速度向上は二律背反の関係にありましたが、新開発のSTT-MRAMは、消費電力を下げつつ、同時に動作速度を上げることに初めて成功し、動作時の電力消費量を従来注5の10分の1程度に低減しました。さらに、メモリから漏れ出す電流(リーク電流)のパスが無い回路を新たに設計することで、動作状態でも待機状態でも、リーク電流が常にゼロになるノーマリオフ回路構造を実現しました。

 モバイルプロセッサは、高性能化に伴い内部のSRAM(主にキャッシュメモリ)の容量も増大しており、動作状態と待機状態それぞれのメモリのリーク電流に起因する電力消耗の増加が課題でした。SRAMの代替メモリとしてMRAMが検討されていますが、これまで開発されてきたMRAMは、不揮発性のため待機状態でのリーク電流は減るものの、動作状態での電力が非常に大きく、結果的にSRAMより消費電力が大きくなるという問題があり、これがプロセッサ適用の障壁となっていました。

 当社は今回、SRAMの代替となり得る高速化と低消費電力化を両立したSTT-MRAMを開発することで、プロセッサの電力削減の可能性を示すとともに、今後も開発した新型STT-MRAMにさらに改良を加えるなど、実用化に向け研究開発を加速していきます。
 なお、本技術は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のノーマリオフコンピューティング基盤技術開発プロジェクトの成果を含んでおり、12月10日から米国サンフランシスコで開催されるIEEEの電子素子に関する国際学会「IEDM」にて、現地時間の12月11日と12日に合わせて3件の論文にて発表します。

注1
2012年12月10日現在、東芝調べ。
注2

同一量のデータを同一時間内で処理するにあたり、そのメモリが必要とする消費電力量。=消費電力/動作速度

注3
Spin Transfer Torque-MRAM::磁気抵抗変化型ランダムアクセスメモリの次の世代の磁性体メモリで、電流注入によってデータを書き込むタイプのMRAM(エムラム/Magnetoresistive Random Access Memory)。
注4
磁性層に垂直方向の磁化を記録する方式。従来の面内磁化方式に比べ、磁化反転時のエネルギーレベルが低く、少ない電流で書き込むことができ、それに応じて選択トランジスタも小型にできる。当社が2007年に世界で初めて開発した。
注5
2012年にミネソタ大学らが論文発表したSTT-MRAMのデータとの比較。

 [図1]開発した垂直磁化方式STT-MRAMのメモリ素子の断面

開発した垂直磁化方式STT-MRAMのメモリ素子の断面

[図2]MRAMの処理速度と消費電力の関係

MRAMの処理速度と消費電力の関係