ニュースリリース

センター・オブ・イノベーション(COI)プログラムの社会実装成果発表について
「東北メディカル・メガバンク計画」の研究成果を活用し、日本人ゲノム解析ツール、ジャポニカアレイ®を開発

2014年11月14日

国立大学法人 東北大学
株式会社 東芝
独立行政法人 科学技術振興機構

 国立大学法人東北大学と株式会社東芝は、2013年10月に独立行政法人科学技術振興機構の「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム※1」公募に採択されたことを受け、ヘルスケアビッグデータ分野での共同研究を継続してまいりました。今般、本共同研究の社会実装への取り組み成果として、日本人ゲノム解析ツール「ジャポニカアレイ®※2」を共同開発しました。

 本ツールは震災復興事業「東北メディカル・メガバンク計画」における東北大学の研究成果を活用したものです。ジャポニカアレイ®は国内外の多くのコホート研究に活用され、個別化医療・個別化予防の加速に貢献する解析技術基盤として、少子高齢化の進む日本社会の活力維持に資することが期待されます。

1.背景

■東北大学と東芝は、ヘルスケアビックデータ研究に関する連携・協力に関する協定を、2013年8月に締結しました。東北大学が医工学連携の下で取り組んでいく様々なヘルスサイエンス分野の研究知見と、東芝が持つセンシング技術やヘルスケアクラウド技術を統合して、各個人の生体情報とライフスタイル情報に基づく、心身の健康管理を行う社会構築に向けた研究(ヘルスケアビックデータ研究)を開始して1年が経過しました。

■その間、2013年10月にCOIプログラムの採択を受け、拠点事業として強力に研究開発を進めております(「さりげないセンシングと日常人間ドックで実現する理想自己と家族の絆が導くモチベーション向上社会創生拠点」拠点略称 COI東北拠点)。超小型高性能で安全な、箸、茶碗、絆創膏などのタイプのセンサを活用し、日常生活からさりげなく行動や心身の情報を収集することによって、常に自分や家族の生活や健康状態がわかり、周囲が見守り支援する「強い絆」を構築できるようにすることを通じて、不安のない安寧な、生きがいあふれた社会を創ります。本学が世界で高く評価されるMEMS※3・エレクトロニクス・通信・エネルギー・素材・医療技術分野の先端研究を一つに結集して、グローバル企業である東芝、及び日本光電工業(株)と新たなライフ分野での革新的な社会実装に向けて取り組んでいます。

■さらにその拠点事業の中では、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)※4と連携した個人のライフ情報の基盤としての「ゲノム情報を活用した個別化医療・個別化予防の普及に向けた事業化」への取組を開始しております。

2.成果

■この度、COI東北拠点では、ToMMoが昨年11月に高精度解読の完了を発表した日本人1,000人の全ゲノム解読データに基づいて構築している「全ゲノムリファレンスパネル情報※5」を用いて、日本人に特徴的な遺伝情報を1枚のチップに搭載してワンステップで解読可能な「ジャポニカアレイ®(バージョン1)」を社会実装しました。この解析ツール開発は、日本人に最適化された解析ツールとして多くのコホート研究に活用され、高齢化する日本において個別化医療・個別化予防の普及による社会の活力向上に資するのみならず、被災地の創造的な復興に貢献する取組と考えています。

3.日本人ゲノム解析ツール「ジャポニカアレイ®」について

■「ジャポニカアレイ®」は、日本人ゲノム情報を高精度かつ低コストで解析可能とする遺伝子解析ツールです。ToMMoが新たに同定した日本人に特徴的な約67.5万箇所のゲノム(SNP※6;スニップ)情報を解読します。東芝では、ゲノムを用いた疾患や体質データの解析研究を行う病院や大学・研究機関等に向けて解析サービスを提供できるよう準備を進めています。

■また、今後更なる研究成果を反映して、個人の疾病リスクやより個人の体質にあった有効な薬剤の選択、個々人のゲノム情報ならびにライフセンシングデータ装着型ガジェット等のビッグデータを統合化して活用するヘルスケアサービスなどに展開できるようバージョンアップを進めてまいります。

【用語解説】

※1 センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム
独立行政法人科学技術振興機構による公募型研究開発プログラム。ハイリスクではあるが実用化の期待が大きい異分野融合・連携型の基盤的テーマに対し、集中的な支援を行っている。産学が連携する研究開発チームを形成し、イノベーションを推進する積極的な社会実装を目指しています。本プログラムは、文部科学省の施策革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)に包摂され、一体的に推進するものです。COI STREAMでは、現在潜在している将来社会のニーズから導き出されるあるべき社会の姿、暮らしの在り方を見据えたビジョンを設定しています。COIプログラムでは、このビジョンを基に10年後を見通した革新的な研究開発課題を特定した上で、既存分野・組織の壁を取り払い、企業だけでは実現できない革新的なイノベーションを産学連携で実現します。

参考 革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)
URL:
http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/coi/

参考 センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム
URL:
http://www.jst.go.jp/coi/outline/outline.html

※2 アレイ
本稿では、DNAマイクロアレイを略してアレイと称しています。検体の遺伝子発現量の変化を解析するために、多数のDNA断片を樹脂やガラス等の基盤上に高密度に配置しています。

※3 MEMS
センサ、アクチュエーター、電子回路、機械的な要素などをシリコン基板などの上に半導体微細加工技術に基づいて集積化したデバイスであり、Micro Electro Mechanical Systemsの略称。圧力センサ、加速度センサ、ジャイロ、インクジェットプリンタヘッド、赤外線センサなどで普及しています。

※4 東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)
東北大学東北メディカル・メガバンク機構は、東北メディカル・メガバンク計画の実施主体(岩手医科大学と連携)として、東北大学に2012年2月に設置されました。本計画は、東日本大震災を受け、被災地住民の健康不安の解消に貢献するとともに、個別化予防等の東北発の次世代医療を実現するため、ゲノム情報を含むゲノムコホート研究等を実施し、被災地域の復興を推進するものです。被災地を医療関係人材が支援することで地域医療の復興に貢献するとともに、15万人規模の地域住民コホートと三世代コホートを形成し、そこで得られる生体試料、健康情報、診療情報等を収集してバイオバンクを構築しています。さらに、ゲノム情報、診療情報等を解析することで、個別化医療等の次世代医療に結びつく成果を創出することを目指しています。また、得られた生体試料や解析成果を同意の内容等に十分留意し、個人情報保護のための匿名化等の適切な措置を施した上で外部に提供することや、コホート調査や解析研究を行うための多様な人材の育成も行っています。

参考 東北大学東北メディカル・メガバンク機構ホームページ
URL:
http://www.megabank.tohoku.ac.jp/

※5 全ゲノムリファレンスパネル情報
大規模な人数の全ゲノム解読を行った結果を総合し、DNA 配列の多型の頻度などの情報をまとめることで、今後のゲノム研究の参照情報となるよう、ToMMoが構築を目指しているものです。ToMMoは2013年11月29日、東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査事業に参加した宮城県在住の健常な日本人1,000人分の全ゲノムの解読完了を発表しました。1,000人規模の全ゲノム解読から、頻度 0.5%程度までの稀少SNPの同定が可能となりました。2014年8月には、頻度5%以上のSNPの公開を開始しました。また今後は、診療情報や生活習慣情報、血液・ 尿解析のデータなどと統合されて、我が国における次世代医療を目指す研究に幅広く活用可能なデータベースとして構築することを目指しています。

参考:東北メディカル・メガバンク計画「全ゲノムリファレンスパネル」情報の部分的な一般公開を開始【プレスリリース】
URL:
http://www.megabank.tohoku.ac.jp/news/5696

※6 SNP;スニップ
ある集団で、ゲノム塩基配列が一塩基のみ異なる多様性があり、その頻度が1%以上のものを一塩基多型(singlenucleotide polymorphism: SNP)と呼びます。