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「放射性廃棄物の処理方法」が「21世紀発明賞」を受賞

公益社団法人発明協会平成30年度全国発明表彰
2018年05月17日

 理化学研究所(理研)と東芝エネルギーシステムズ株式会社、日本原子力研究開発機構、科学技術振興機構の特許「放射性廃棄物の処理方法(特許第6106892号)」が、公益社団法人発明協会「平成30年度全国発明表彰」の「21世紀発明賞」を受賞しました。

 受賞した発明は、高レベル放射性廃棄物に含まれる半減期の長い核分裂生成物(LLFP: Long-lived Fission Products)[1]の資源化と低減化を実現するために、偶奇分離[2]と加速器による核変換[3]を組み合わせた方法です(図1)。

 半減期の長い奇数核種のみを取り出す方法として、奇数核種が核スピン[4]をもつことを利用した偏光レーザーによる偶奇分離法を採用しました注1)。また、核変換では奇数核種を選択的に変換するために、加速器で生成したエネルギーのそろった2次中性子を利用します。パラジウム(Pd)を例にとると、半減期650万年のPd-107は、偶奇分離法によりPd-105と共に取り出し、エネルギーが7-9.5MeVの中性子を照射して、安定なPd-106とPd-104に変換します。核変換されたPdは自動車用触媒などに再利用されます。本発明により、地層処分場の容量の低減、処理用の大容量加速器とレアメタルのリサイクルの分野の発展が期待できます。

 なお、本特許は、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化」の支援を受けて権利化したコンセプト特許です。

注1)2017年1月10日プレスリリース パラジウム同位体を選択的・高効率に分離するレーザー技術

 

図1 本発明の目的と特長

図1 本発明の目的と特長

【受賞者:発明者】
大津 秀暁   理化学研究所 仁科加速器科学研究センター
        核変換データ研究開発室 高速RIデータチーム チームリーダー
藤田 玲子        ImPACTプログラム・マネージャー(PM)
松崎 禎市郎     理化学研究所 仁科加速器科学研究センター
         核変換データ研究開発室 ミューオンデータチーム 協力研究員
櫻井 博儀        理化学研究所 仁科加速器科学研究センター 副センター長
下浦 享           東京大学 理学系研究科 教授
水口 浩司        株式会社東芝 研究開発センター
         トランスデューサ技術ラボラトリー室長
大井川 宏之     日本原子力研究開発機構 事業計画統括部長
小澤 正基        ImPACTプログラム・マネージャー補佐
仁井田 浩二     高度情報科学技術研究機構 コード開発部 非常勤嘱託

【21世紀発明貢献賞受賞者(権利会社・組織の代表者)】
松本 紘           理化学研究所 理事長
畠澤 守           東芝エネルギーシステムズ株式会社 代表取締役社長
児玉 敏雄        日本原子力研究開発機構 理事長
濵口 道成        科学技術振興機構 理事長

1.「21世紀」発明賞とは

  「21世紀発明賞」は、「科学技術的に秀でた進歩性を有し、かつ、中小・ベンチャー企業、大学及び公設試験研究機関等の研究機関に係る発明等が対象で、21世紀の社会を創造するに当たり、実施効果を挙げている、又は今後大きな実施効果を挙げると期待される発明等」に授賞されます。この授賞制度は、公益財団法人発明協会による制度で、発明協会は科学技術の振興と知的財産権制度の普及・啓発に貢献している組織です。発明協会の全国発明表彰は大正 8 年、我が国科学技術の向上と産業の発展に寄与することを目的に始まり、多大な功績を挙げた発明、考案又は意匠、あるいは、その優秀性から今後大きな功績を挙げることが期待される発明等を表彰する制度です。

2.受賞対象となった特許の背景と特徴                              

 今回受賞した発明「放射性廃棄物の処理方法(特許第6106892号)」は、高レベル放射性廃棄物の低減化、資源化に関係しています(図2)。我が国では、原子力発電所で使用した使用済み燃料は再処理してガラス固化体にし、300メートルより深い地層に地層処分する計画になっています。しかし、この地層処分の候補地がなかなか決まりません。そこで、高レベル放射性廃棄物の後世代への負担を軽減することを目的に、ImPACT「核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化」を推進しています。

 高レベル放射性廃棄物を低減するためには、分離と変換の二つの技術が必要です。ここで分離とは、廃棄物から特定の元素もしくは核種を分離し、濃縮すること、変換は、核反応を利用して長寿命核種を安定核種、短寿命核種、毒性の低い核種に変えることです。廃棄物の低減化に対して、分離と変換の技術は、共に必要であり、分離・変換の技術や方法の最適な組み合わせを提案することが本質的に重要です。

 本発明の鍵となるアイデアは、半減期の長い核分裂生成物の分離変換として、偶奇分離法と、加速器で作られた中性子を利用する反応とを組み合わせたことにあります。従来の主な考え方は原子炉で得られる熱中性子を利用した熱中性子捕獲反応[5]による核変換が前提になっており、これにあわせた分離は元素の同位体を一種類だけ選び出す同位体分離でした。加速器で生成される中性子のエネルギーは比較的容易に変化させることができます。従って、加速器中性子を用いて、熱中性子捕獲反応だけでなく、中性子ノックアウト反応[6]などを利用することができます。この加速器中性子の長所により、分離の際には、同位体分離ではなく、偶奇分離法を適用することが可能となります。同位体分離と比べ偶奇分離は効率が良いことが特徴です。偶奇分離はレーザー技術で行うことができ、奇数核種が核スピンをもつことを利用して偏光レーザー光の照射により奇数核種のみをイオン化することができるからです。

図2 従来の技術課題と本発明の技術

3.今後の期待                               

 本発明により、地層処分場の容量の低減とレアメタルのリサイクルの分野の発展が期待されます。また、本発明が契機となって、レーザー偶奇分離と加速器の技術開発が大きく前進しています。レーザー偶奇分離の最近の開発では2種のレーザー光照射で高純度の分離に成功しています。また大強度のビームを加速するための新しい加速器も提案されています。本発明から派生したこれらの研究開発によって新しい研究分野と新しい市場の創出ももたらされることが期待できます。

4.補足説明                                

[1] 半減期の長い核分裂生成物
アルファ線(α線)やベータ線(β線)などの放射線を放出して崩壊する原子核を放射性核種という。天然に存在する放射性核種として、カリウム-40(40K、原子番号19、質量数40、半減期12億年)やウラン-238(238U、原子番号92、質量数238、半減期45億年)などが知られている。天然放射性核種は、半減期が地球年齢(約46億年)程度あるので崩壊せずに残っている。放射性廃棄物中に含まれる放射性核種は、原子炉内で人工的に作られたもので、天然に存在する放射性核種に比べて半減期が短く、放射能が高い。この核種を長寿命核分裂生成物と呼び、79Se(半減期:29.5万年)、93Zr(153万年)、99Tc(21.1万年)、107Pd(650万年)、126Sn(10万年)、129Ⅰ(1,570万年)、135Cs(230万年)などがある。

[2] 偶奇分離
原子核の質量数(陽子数と中性子数の和)が偶数か、奇数かに応じて同位体を分離する方法。

[3] 核変換
原子核反応を利用して長寿命核種を安定核種、短寿命核種、毒性の低い核種に変えること。

[4] 核スピン
原子核のもつ角運動量のこと。原子核の質量数が偶数ならば核スピンは整数、奇数ならば半奇数の値をもつ。陽子数、中性子数がともに偶数の原子核の基底状態のスピンはゼロになる。核スピンがゼロでない原子核は、磁気モーメント(地球のように磁場を発生する能力)があり、原子核の周りにいる電子との間で磁気的な相互作用を及ぼす。

[5] 熱中性子捕獲反応
原子核が熱中性子1個を捕獲して、中性子数が1個多い同位体になる核反応。熱中性子とは、原子の熱運動と平衡状態にある中性子で、中性子のエネルギー分布は室温で決まる。平均エネルギーは約0.025eV、平均の速さは約2.2 km/s。

[6] 中性子ノックアウト反応
エネルギーが8MeV程度以上の中性子を利用して、原子核から一つ中性子を取り出し、中性子が一つ少ない原子核を生成する反応。