ニュースリリース

短期記憶と長期記憶の活用により高精度な予測を可能にする
エッジデバイスに搭載可能なAIを開発

~社会インフラや工場などの設備稼働率の向上、保守管理コスト低減に向けて~
2018年12月12日

 当社は、エッジデバイスでの稼働を想定し、社会インフラや工場などにおける設備に設置された多数のセンサより連続的に収集されるデータの流れであるデータストリームから、リアルタイムに高精度な将来予測値を算出するAI「Online Prediction Method of Stream Data with Self-Adaptive Memory(OPOSSAM)」を開発しました。本技術により、社会インフラや工場などのシステムの稼動状態をリアルタイムで予測することで、設備保守のタイミングを正確に予測することが可能となり、故障予防、稼働率向上、保守管理コストの低減に貢献する効果が期待できます。
 本技術は、人間の記憶管理に着想を得て、直近の短期的な時系列変化の傾向に加え、過去の繰り返し傾向を学習する長期記憶を併せてバランスよく活用するもので、将来値を高精度に予測することが可能です。また、長期に現れる傾向については、代表的なパターンを選定して管理するため、メモリ使用量が削減でき、エッジデバイスでの動作が可能となります。当社は、交通インフラなどの公開ベンチマークデータによる性能検証の結果、従来技術と比較し、13%の精度向上を確認しました。
 当社は、本技術の詳細を、米国・シアトルで開催中のIEEE International Conference on BIG DATA 2018にて発表しました注1

 近年、インダストリアルIoTの進展とセンサ技術の発達により、膨大な量のデータを容易に取得できる環境が整いつつあります。とくに、絶えず流れ続け、その傾向が時間変化する性質を持つデータストリームについては、社会インフラ、工場などのシステムの状態をリアルタイムで監視し、データを分析することで、設備の故障予防や稼働率の向上に貢献する効果が期待できます。そうしたデータの有効活用には、大規模な計算機を用いずに様々な種類のデータストリームから将来値を常に精度良く予測するリアルタイム予測技術が必要となります。傾向が時間の経過に伴い変化するデータストリームに対応する従来の手法では、分析作業を行うデバイスの演算能力やメモリ容量の制約から、直近のデータを重視し、古いデータを消去、忘却する仕組みが主に取り入れられてきました。しかし、この仕組みでは長期にわたって繰り返される変化のパターンを十分に活用できないため、予測精度に課題がありました。

 「OPOSSAM」は、逐次観測される実測値と予測値との誤差に基づき、短期記憶と長期記憶の分析時の重み付けをリアルタイムに自動調整することで、時間の経過に伴い変化するデータ傾向に適応し、将来値の予測を精度高く行います。さらに、長期記憶には代表的なパターンのみを選定して保管すると共に、各パターンを使った予測値が実測値と大きく乖離する場合には、乖離するパターンを削除し、記憶量を一定以下に抑制することで、メモリ容量が限られるエッジデバイスでの動作を可能にしました。






 当社グループは、製造業として永年にわたり培ってきた幅広い事業領域の知見や実績と、情報処理やデジタル・AI技術の強みを融合し、世界有数のサイバー・フィジカル・システム(CPS)テクノロジー企業への変革を目指しており、「OPOSSAM」はCPSを具現化するテクノロジーの一つです。今後は、「OPOSSAM」を複数の種類からなる時系列データの関係性を考慮した予測技術へ拡張していくとともに、社会インフラ、エネルギー、製造現場の様々なシステムの状態予測に適用していくことを目指します。

注1 本会議での発表に加えて、International Journal of Data Mining Scienceにも採択されています。