モモ

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※このシリーズについて

モモ

ウメ、サクラと並ぶ春の花

文:生原 喜久雄

写真:茂木 透
熊田 達夫

 落葉小高木で生長は早い。樹高10メートル、直径30センチになるが、 人工樹形は3〜5メートルが多い。
モモ 樹皮 3月下旬から4月上旬、前年の長枝の葉腋からでた短枝に紅色の花が2、3個ずつ集まって開葉前か開葉と同時に咲くので美しい。モモやウメは1枚の葉のつけねに3個の冬芽がついている。中央の葉芽は主軸につく腋芽で、その左右の鱗片葉の腋芽は花芽である。腋芽はこのように、枝の頂点につく(頂芽)のではなく、葉の付け根などに出る芽をいう。
 モモはウメやサクラと並ぶ春の代表的な花だが、ウメやサクラに比べればケタ違いに品種は少ない。理由はよくわからない。また、古歌にもあまり詠まれておらず、大都市近郊に有名なモモの花の名所がない。近年になって信州や秩父で観光目的に群植する所が現れている。

果実の溝は心皮が合わさった痕

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 モモやウメの果実は表面に軟毛が密生して、縦方向に1本の溝がある。これは1枚の心皮の両縁が合わさった痕、すなわちつなぎ目である。心皮は、種子植物のメシベを構成するもので、葉が変化したものと考えられている。
 モモは春に桃色の五弁の花を咲かせる。モモの花はメシベが1つで、オシベがたくさんある。メシベのてっぺんを柱頭、その下の花柱のふくらんだ部分を子房という。子房の中には種のもとである胚珠がある。受精すると子房が生長し、柱頭や花柱は消失する。果実は子房が大きくなったものである。子房の中の胚珠は生長して種子になる。
 果実のもとであるメシベは心皮が胚珠を包んで丸まり、ひと回りしてあわさったものである。心皮の先端が柱頭になり、真ん中の部分が子房になる。ウメやモモの果実のように1枚の心皮からできているものを1心皮子房と呼び、複数の心皮からなるものは多心皮子房という。

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中国からペルシアを経て、ヨーロッパへ広がる

 モモは、約4000年前中国で初めて栽培されたことがわかっている。中国から古代のシルクロードを通じてペルシア(イラン)にもたらされた。紀元前300〜400年に、ヨーロッパ全体にひろまった。種名のpersicaは「ペルシアの」という意味だが、これはペルシアが原産地と思われたためである。
 日本には有史以前に渡来し、弥生時代の遺跡からモモの種子が多く発掘されている。当時は食用としてよりも祭祀に関連して使われていたものと思われる。
その後、観賞のために改良された「花モモ」と、果実のために改良された果樹としての「実モモ」として栽培され、一部に野生状態で生えている。

「花木」、「実もの」、「葉もの」

 庭木とは、庭を構成している木々すべてを指す。「花木」とは、本来は、庭木のなかで美しい花や実や葉まで楽しめる木を指すが、最近は花の美しいものを「花木」、果樹を含めて実を楽しめるものを「実もの」と呼ぶことが多いようである。
 カエデやカツラなど、葉の色や形が楽しめる樹種は「葉もの」と呼ばれる場合がある。モモの場合、花を観賞する「花モモ」は「花木」だが、実を収穫するモモは「果樹」である。

若い果実は食べ過ぎると中毒の可能性

 モモの生食用の代表品種は「白桃」、「大久保」、「布目」、「倉方」で、灌詰加工用には、「灌桃2号」、「明星」がある。モモの繁殖は野生桃の台木に接木した苗木を用いる。
 モモの代名詞である水密桃の名で知られる産毛の生えたようなふっくらとしたモモは明治中期に中国から導入した品種(上海水密桃)の改良である。有名な岡山産の白桃も、この水密桃が改良されたものである。
 モモは他の果樹と違って木の寿命が15〜20年と短いので、栽培される品種の移り変わりが激しい。また、産地の移動も激しく、以前は神奈川県と岡山県が主産地であったが、現在の主産地は山梨県、福島県、長野県などである。果実としての生産はアメリカ合衆国が世界の半分を占め、ついでイタリアが4分の1を産している。
 ウメほどではないが、モモの若い果実も食べ過ぎると中毒する。果実中のアミグダリン(青酸配糖体)という配糖体が、酵素の働きで青酸を生じるためである。果実が熟すと青酸は消える。未熟な果実を野生動物に食されないための防衛手段といえる。

果実は食べられない花モモ

 モモの花に関しては『古事記』、『日本書記』に登場し、『万葉集』にも花を観賞する歌がある。開葉前か開葉と同時に大輪のように無数に美しく開花するので、観賞するための栽培も古い。「花モモ」は花を観賞するために改良されたモモの品種なので、果実は食べられない。
モモ 葉 「花モモ」の品種としては「関白」、「菊桃」、「矢口」、「源平」、「相模枝垂れ」、「源平枝垂れ」などがある。
 花の形の標準は一重で、淡紅であるが、変種は多い。白花のものは縁起木で、瑞祥(しょうずい:めでたいしるし)の木とされる。
 種子を割り、中の胚を乾燥させたものを、漢方では桃仁(とうにん)といい、アミグダリンを含んでいるので、鎮痛剤、月経不順などの薬用になる。葉にはタンニンを含み民間薬で、桃葉湯といい、入浴剤としてあせもや湿疹に効果がある。現在は葉の成分が化粧品や石鹸などに配合されている。白桃の蕾を干したものを白桃花といい、利尿や下剤に使われる。ただし、白桃花は古くなると効果がなくなる。

モモから生まれた桃太郎

モモ 果実 中国で桃弧とは、モモの木で作った弓で、鬼や災難除けとされている。モモは長寿のシンボルでもあった。モモを食べて老夫婦が若返って子供が生まれたという信仰もある。またモモの果実は悪鬼を払うという話が多い。日本の三大昔話の1つである桃太郎の鬼征伐なども、このような故事を知っている者の創作と思われる。
 興味あることは、ヤナギ属やモモ、ウメのバラ科の種子は河川等による流水散布型である。小川を流れて適度な湿気のある中州や岸辺で発芽して生長する。川を流れてきたモモから生まれるという桃太郎の昔話の作者はモモの種子が水散布型であることを知っていたのかもしれない。

中国から伝わった桃の節句

 桃の節句は、古代中国の春の習俗が日本に伝えられたもの。平安時代に日本独自の民俗が付け加えられ、人形(ひとかた)を川に流して厄払いする行事が行われるようになった。この人形が工芸品として発達して、雛人形となった。雛祭りが旧暦の3月3日の行事とされたのは、江戸時代である。
 3月3日の節句になぜモモなのか。モモと雛祭りの関係は、単なる季節の上からだけでない。中国古来の思想にモモに邪気、悪気を払う霊力があるということ、鬼はモモを嫌うことから、女の子を悪鬼や邪悪から守り、幸せを祈る花として飾るようになった。
 旧暦の3月3日(新暦4月3日ごろ)の雛祭りには切り花として利用していた。しかし、新暦になってからは、3月3日にはまだモモの花は咲いていない。
雛祭りの時に飾る切り花は、温室に入れて促成栽培し、市場に2月下旬から3月上旬に出荷している。切り花として多く栽培されている品種は「矢口」である。
 雛壇に供える白酒(もち米、麹、焼酎などからつくる)は、モモの花と麹にご飯を混ぜて発酵させて作った桃花酒(百病を除き、血色が良くなる)が転じたものである。

モモの仲間、ネクタリン

 ネクタリンは中国原産のモモと同じモモ属で、地中海沿岸や南欧で栽培されている。日本でも栽培は古く、油桃(あぶらもも)、ズバイモモといわれていた。夏季乾燥を好み、形態はモモに似ており、表面に毛がない点がモモと大きく異なる。果頂は乳房状にやや尖る。
 果実の色は赤みかかった橙黄色(とうこうしょく)を呈し、果実はしまっており香りが高く、酸味がある。日本での栽培は少ないが、最近、この味が好まれ、新品種も加わって、生産が伸びている。 <2012.01>

モモ 八重

(はいばらきくお 東京農工大学 名誉教授 森林生態学)

でーた

モモ
種名: Prunus persica 英名 peach 漢字 桃。
分類: バラ科 モモ属。
分布: 中国北部(甘粛省、陝西省の高原地帯)。日本でも広く栽培され、野生化している所がある。
葉: 葉は互生、長さ8〜15cmの広倒披針形または楕円状被針形で、先は細く尖り、基部はくさび形。基部または葉柄の上部に一対 の蜜線がある。縁には細かい鋸歯がある。両面とも緑色で葉脈上にわずかな毛がある。葉柄は長さ1〜1.5cm 。
幹: 樹皮は暗紫褐色で、樹脂を分泌している。横長の皮目があり、不規則な割れ目が入る。幼枝に粘質がある。
花: 両性花。3月下旬から4月上旬、葉より先か同時に、前年枝の葉腋に葉芽とともに1〜3個咲く。直径3〜5cm。芳香がある。
果実: 果実は核果。表面がビロード状の毛で覆われている。7月に黄白色〜紅色に熟す。果肉は白く多汁。種子は約1cmで広楕円形、表面に小さな穴と深い溝のようなしわがある。
用途: 庭木、果樹、切花。材は器具材、楊枝。種子、葉、白桃の蕾は薬用に。
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