連載「技術の樹はどのようにして成長するか 創造的思考、技術革新の現場−現代技術史の1頁」 第20回 心地よい製品音をつくる 設計工学の製品への応用例 談 大富浩一 穂坂倫佳

(終)製品音の調和を目指して

表現しにくい心地よい音

 心地よい音を目指して旧機種を改良したこの掃除機は、2008年の3月に「Quie(クワイエ)」と命名されて発売されました。「心地よい音」は数値で表現しにくいのでキャッチフレーズにならず、心地よい音を目指したとはいいながら、結局は、「低運転音ナンバー1」という売りになってしまいました。
 騒音レベルは数字でわかった気になりますが、音のデザインの難しいところは、聞けばわかるのですが、聞かなくてもわかる言葉での表現が難しいことです。
 いい音質というのを、ラウドネス値で表してもいいのですが、消費者には掃除機を比べるときに、騒音レベルが固定観念になってしまっているので、それを超えるうたい文句をみつけることができなかったのです。
 店頭の評判の分析では、わたしたちが目的とした、キーン音がないとか、心地よい音質になっていることは、わかってもらえたと思います。
 この掃除機の音のデザインについては、日本音響学会で発表し、「車の音が心地よいというのは聞いたことがあるが、家電製品も心地よい音ができることが理解できた」と、評価されました。また、2011年4月には「心地よい音を実現するデザイン技術開発と製品適用」で日本機械学会賞を受賞しました。

コピー機の音の改良

 掃除機の音のデザインと平行して、コピー機の音の改良にも取り組んでいました。結果的にやったことは低騒音化に近いことです。音のデザインの考え方をいれようとしたのですが、掃除機ほどはうまくいきませんでした。
 製品の音のデザインの研究は、学会においては、コピー機の音質に関するテーマがもっとも多く発表されています。会社で仕事しているときに、コピー機の連続音がうるさいということからだと思います。コピー機は全体の音のレベルだけでなく、連続音の拍子、リズムなども不快感につながるようです。今後の課題です。

パソコンの小さくても気になる音

 家電製品の中には、エアコン、冷蔵庫といった掃除機に比べてはるかに音が小さい製品があります。
 現在のエアコンも冷蔵庫も、これ以上、音を小さくする必要があるかと思うくらい静かです。それでも、深夜などに聞こえる冷蔵庫の音は小さくても心地よくない音と感じてしまうのです。パソコンの冷却ファンの音の改良にも挑戦したこともありますが、もともと音が小さいのです。人間はその小さい音を選択的に聞いてしまうので気になるのです。将来はそういう小さいけれど気になる音も改良していきたいと考えています。その改良には音のデザインの知見が生きると思います。

東芝サウンド

 また、家庭の中では、いろいろな音がするので、どの音なら気にならないのか、どの音が気になるのか、基準をつくろうとしています。
東芝はいろいろな製品をつくっているので、どんな製品でも東芝とわかるような音にしたいですね。
 東芝の製品は、価値として「信頼できる」ということを売っていると思います。音からも、信頼感を表現できればと思います。たとえば、エアコンの音からも、「夏は涼しく」、「冬は暖かく」感じられればいいと思います。
 さらに将来は、東芝の製品を集めるといい音の空間になるといいなと思います。家庭のなかにある東芝製品の音が調和し、東芝らしい音、東芝サウンドができないか考えています。 <2011.06>

(談 おおとみこういち ほさかりか)

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