大原まり子のテクノロジー・レビュウ

大原まり子のテクノロジー・レビュウ
大原まり子。 作家。大阪生。80年、第6回ハヤカワSFコンテストに佳作入選、作家としてデビュー。94年、『戦争を演じた神々たち』で第15回日本SF大賞受賞。現在、『文学界』に短編、『朝日新聞』、『読売新聞』で書評など連載中。ホームページは「アクアプラネット」

至れり尽くせりの日本的な作りこみ(下)

本格的調理に挑戦するオーブンレンジ

調理、試食をくりかえしてレシピ検討

 「石窯ドーム」を買うと、「取扱説明書・料理集」という、けっこう厚みのある本が付いてくる。この中に、洋食から和食、中華、パンや洋菓子、和菓子まで、さまざまな料理のレシピが掲載されている。巷の料理本より、よほど充実しているし、オートメニューなど石窯オーブンならではのレシピも多数掲載されている。
 ここに載っているすべての料理について、神谷さんは実際に調理し、さまざまな温度や加熱方法で検証し、味見して、また調理方法を2年間に渡って検討したという。
 ごはんのあたため一つでも、さまざまな好みがある。基本中の基本だけに手を抜けない。また、オートメニューには7段階もの仕上がりがあり、一つのメニューのシステムを作るのも大変な作業だ。
 「石窯ドーム」は、料理スクールのABCクッキングスタジオにも導入され始めていて、「カンタンおいしい家族ごはん」というABCクッキングスタジオ監修による別冊料理集も付いている(一部機種のみ)。

掃除が簡単な「とれちゃうコート」

 「石窯ドーム」には、「とれちゃうコート」という画期的なコーティングを施した。
 一般の鉄板の角皿はホーロー加工されている。ホーロー加工とはガラスの細かい粒を表面に吹き付けてガラスの膜を作る加工のこと。吹き付けるガラスの粒のサイズは通常20〜30マイクロメートルだが、これを50ナノメートルという1000分の1の単位の小さな粒に変えた。
 ホーロー加工の角皿に焦げがこびりつくと、お湯に漬けてもタワシでこすっても取れなくて、ひどいことになるのだが、とれちゃうコートの場合、するーっとそのままお焦げが鉄板の上を滑る。デモで実際に見せていただいたが、ネーミングのまんまだ。
 このとれちゃうコートが庫内全体に施されているので、掃除は庫内をサッと拭くだけで充分。また、スチームをかけ高熱のオーブンで焼き切ってしまえば汚れが残らない。臭いは汚れがなければ出ないので、特別な脱臭機能も必要ない。
 つけ加えると、角皿を手で持ってみると軽くてビックリする。鉄板ではないのではないかと思うほどだ。縁の部分に穴があいていることもあるが、薄く、強く、曲がらない、という形状に作られている。
 料理を載せるとかなり重くなるので、角皿がこれほど軽いのは特に女性には扱いやすいと思う。

難しかった350℃の実現

 オーブンレンジの開発は、構造設計、性能試験、ソフトウェア設計、調理、と分かれる。そのうち、神谷さんは調理を担当。槙野さんは広報を担当している。そして、初川さんは「文句をいう人」なのだとか。
 「石窯ドーム」の開発にあたって、最もむずかしかった点は、最高温度の350℃まで、いかに速く温度を上げるかということ――つまり、熱い空気を食品にいかに効率よく供給するか――ということだった、と初川さん。そして、トルネードエンジンという形が生まれたわけだ。
 コンピューターシミュレーションは原理的なことはやるが、流体力学は複雑すぎて、実際に作ってやってみないことにはわからないことが多いという。角皿までは計算できても、上にさまざまな形や状態の料理が載ると、計算だけでは実際にどうなるのかわからない。
 奥の鉄板に熱風を通す穴が開いているのだが、その穴の開き方がけっこうランダムになっている。これは、実際に、一つ一つ開けたりふさいだりして、庫内の熱効率を研究した結果だという。
 こういった地道で細かい作業と計測の積み重ねによって、製品が作られてゆく。

海外ではほとんど使われないオーブンレンジ

 オーブンレンジの需要は12月と3月に高まる。そして伸長傾向にある。
 総需要335万台のうち、平均単価が高い多機能オーブンレンジが280万台、単機能のものが55万台。内食ブームもあり、2011年予測は前年比106%と増えている。
 また、オーブンレンジ業界は、特色・売り上げ共に3極化しているそうだ。東芝のオーブンに力を入れた「石窯」、シャープのスチームに特徴のある「ヘルシオ」、そしてパナソニックのグリル的な「ビストロ」および日立。
 一方、海外ではオーブンレンジというものがほとんどないそうで、たとえばヨーロッパでは単機能のオーブンが主流。中国や東南アジアでは外食文化が発展していて家で料理をつくらないことが多い、パンを焼くことがほとんどない、など、それぞれ事情が違うようだ。
 この多機能でコンパクトで細やかな配慮の行き届いた電気製品は、日本的といえば日本的だ。

省スペース、省エネ

 省スペースについては、前機種のER−GD500は左右に4.5センチ、上方10センチのスペースが必要だったが、今期の上位機種ER−JD510は、左右と背面はぴったり、上方のみ10センチのスペースがあれば置くことができる。
 省エネについては、年1500円程度の電気代。調理器具での省エネはなかなかむずかしいところだが、それでも年々進歩している。
 「石窯ドーム」を見て感じるのは、よくここまで作り込んだなあということ。至れり尽くせりというのか。これこそが、まさしく日本の姿なのだと思う。 <2011.11>

(作家 おおはら まりこ)

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