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カラスの知能、ヒトの知能 − 行動解析から脳機能解明へ(下) 談 渡辺茂 慶応義塾大学 文学部人文学科教授

他に転用できる能力

 知能の一番、面白いところといいますか、知能らしいことのひとつは、本来、ある目的のためにつくられた能力を、他のことに転用できる能力だと思います。ヒトはそれが大変、よくできる動物だと思います。ヒトは、たとえば空間的な記憶力などの特殊な能力はトリに劣るかもしれませんが、ゼネラリストなのです。
 トリにもそうした柔軟な能力があるという意見はあります。たとえば、オウムの物まねです。オウムは歌を覚えなければなりませんが、孵化して間もないある時期に、他のオウムの歌を記憶するのです。ほとんどは求愛の歌ですから、使うのは成鳥になってからです。その間、頭の中に歌の記憶は眠っているわけです。
 オウムにヒトの言葉を教えてもすぐには、ものまねしません。しばらくたってから、ものまねを始めるのです。あるいは、オウムに首を振る動作を教えた実験があります。それも、教えてから少したってから、遅れてその動作が出てくるのです。おそらく、頭の中の機構としては、歌の学習の機能を、他のことを学ぶときにも応用しているのだろうと考えられます。
 僕の実験室の研究では、ハトが、たとえばピカソとシャガールの絵を見分けることができることがわかりました。自然の状態ではハトにそんなことをする必要はないわけです。しかし、必要があればできるということです。
 ヒトとトリが似ているところのひとつは、視覚動物であるということです。その視覚能力を、ヒトは、絵を見分けるのに普通に使っていますが、動物でも視覚能力が一定にあれば、そういうことにも応用できるということです。

カラスの脳地図から脳機能へ

 こうしたトリの知能は、いうまでもなくトリの脳が担っています。ハトの脳については、かなり明かになってきたのですが、これからはカラスの脳についても詳しく調べていこうと考えています。
 僕の研究室で、准教授の伊澤さんが、世界で最初にカラスの脳地図をつくりましたが、各部の機能はまだわかっていないのです。それを少しずつ実験していきたいと考えています。その研究から、霊長類で脳のどこがどういう機能を持ち、トリの脳のどこがどういう機能を持っているのかの比較ができるようになると思います。

ハトとカラスの脳の違い

 一般的に、脳は、前脳、中脳、後脳と大きく3つに分けられます。前脳はさらに大脳と間脳に分かれます。感覚系でいいますと、前脳は嗅覚、中脳は視覚です。トリは視覚がいいので、一般に中脳が大きいのです。魚も中脳が発達しています。ですから、ハトの脳を見ますと、大脳よりも中脳が大きくはりだして見えます。ところがカラスは大脳が大きく横にはりだしています。
 大脳の中にいろいろな部分があるのですが、どれが相対的に大きいかが、トリの種類によって違います。ハトは、人間でいえば、視覚野にあたるような一次的な感覚を処理するところが大きくて、高次機能を司る連合野に相当する部分の発達は、カラスに比べると小さいのです。
 カラスは、「巣外套」と呼ばれる部分がよく発達しています。これは、一次的な感覚野とか、運動野ではなくて、ヒトの脳でいえば、連合野に相当する部分です。

異なる脳の能力

 さまざまな動物の知能の実験、観察から、違う脳の構造で、同じような機能を実現できることがわかってきました。遺伝子の設計図は違っても、必要に迫られれば、同じような機能を発揮できることがあるということです。
 脳の形態から、どこまで知能などに制限があるか、どれだけ自由度があるか、今後はそこをはっきりさせたいと考えています。
 それを見るためには、違う構造で、同じような機能を実現している動物の脳の比較が必要です。そうした知能をもった動物をいろいろ比較することによって、僕らヒトが動物の中で、どういう位置にあるのか、逆に僕らの制限、あるいは劣っているところは何なのかがわかってくるはずです。それが類人猿ではなくて、他の知的な動物の研究をする意義だと思います。 <2009.11>

(談 わたなべ しげる)

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