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シミュレーテッド分岐アルゴリズムを搭載した超高速な金融取引マシンのコンセプト実証機を開発
−利益率が最大となる金融取引機会を90%以上の高確率・マイクロ秒級の速度で検出・応答
社会実装に向けて金融工学エキスパート人材の公募を開始−

2019年10月17日
株式会社東芝

当社は、大規模で複雑な組合せ最適化問題の高精度な近似解(良解)を短時間で得る当社独自の「シミュレーテッド分岐アルゴリズム(Simulated Bifurcation アルゴリズム。以下、SBアルゴリズム)」を搭載した超高速な金融取引マシンのコンセプト実証機(Proof-of-Concept。以下PoC機)を開発しました。本PoC機により、刻々と変化する外国為替市場において膨大な通貨の組合せパターンの中から利益率が最大となる裁定取引の機会を90%以上の高確率で発見し、売買注文の発行までをマイクロ(100万分の1)秒級の時間で完了することが可能となります。最良の裁定取引を瞬時に発見・実行するPoC機の実証は世界初です。今後、研究開発、新規事業開発を推進するため、金融工学分野のエキスパート人材を募集します(注1)

当社は本年4月20日にSBアルゴリズムの開発について、続いて9月11日にSBアルゴリズムの専用処理回路の開発について公表しました。今回開発したPoC機は、SBアルゴリズムおよびその専用処理回路が実現する瞬時最適応答システムという新しいシステムコンセプトを外国為替の裁定取引に適用して実証するものです(図1)。本技術は、金融をはじめ産業ロボットや災害時緊急対応システムなど高速なリアルタイム応答が要求される分野にイノベーションを起こすことが期待されます。
当社は本PoC機を東京で10月24日・25日に開催される金融国際情報技術展「FIT2019」(注2)および11月7日、8日に開催する「TOSHIBA OPEN INNOVATION FAIR 2019」(注3)において、東芝デジタルソリューションズ株式会社と共同で展示します。

金融取引の最適化、産業用ロボットの動作の最適化、移動経路や送電経路の最適化など、社会・産業システムにイノベーションを起こすための課題の多くは、膨大な組合せパターンの中から最良のものを選び出す組合せ最適化によって解決することができます。組合せ最適化は、問題の規模が大きくなるにつれて組合せパターンの数が指数関数的に増大するため、既存の計算機で高速に解くことは困難です。このため、当社は独自の量子計算機「量子分岐マシン」(注4)およびその理論を古典力学系へ展開した、世界最高速度・最大規模の最適化を可能にする「SBアルゴリズム」(注5、6、7、8)を発表しました。さらに当社は、瞬時最適応答システムのコンセプトを提案し、その実現のために必要となるSBアルゴリズムの専用処理回路(注9、10)を発表しました。金融取引や産業ロボットなど高速なリアルタイム応答システムでは、外部環境の検知、それに応じた対応アクションの決定、そのアクションの実行を含むトータルの応答時間を短縮することが求められます。従来、高速システムにおいては、過去の経験に基づく簡易な条件判定式などにより対応アクションが決定されていました。リアルタイム応答性と高速な組合せ最適化を両立させ、周囲の変化に応じて最も合理的な判断を瞬時に下す高速リアルタイムシステムはこれまでにない新しいコンセプトであり、社会実装するためには実証実験を重ねる必要があります。

そこで当社は、高速なリアルタイム応答が求められる場として金融取引に着目し、外国為替市場における多数通貨間裁定取引(注11)を実行するPoC機を開発しました。
本PoC機は、SBアルゴリズムの専用処理回路、専用インターフェース回路、為替レートマトリックス管理回路、取引アルゴリズム処理回路からなる裁定取引システムを1つの再構成可能回路チップ(FPGA) (注12)に実装した超低遅延のオールハードウェアソリューションです(図1)。本PoC機は学術的に定式化された多数通貨間裁定取引モデル(注11)を扱います。本PoC機に搭載されたSBアルゴリズムの専用処理回路は、組合せ最適化問題の1つである重み付き有向グラフにおける最適経路問題(注13)を高速に解くことで、利益率が最大となる裁定機会を瞬時に選びます。本実証では、8通貨15ペア(8ノード、30エッジの有向グラフ)の実際の取引データ(注14)を使用しました。

本PoC機は、0.001秒程度と極めて短く、なおかつ不定期な時間間隔で発行される各通貨ペアの市況パケットを取り込み、膨大な選択肢の中から最も利益率が大きくなる最良の裁定機会(一連の通貨交換手続き)を見つけ出し(図2)、その情報と取引アルゴリズムに基づき決定した注文パケットを市況パケット到着後0.00003秒(30マイクロ秒)以内に発行します(図3A)。この応答時間は、0.001秒程度の為替の変動タイミング間隔を大きく下回ります。すべての可能性ある取引のうち利益率が最大となる裁定機会を検出する確率は90.96%です。また、収益性が正(利益率が1.0より大きい)となる裁定機会(利益機会)が少なくとも1つ以上存在する場合に、その利益機会のいずれかを検出する確率は97.96%に達します(図3B)(注14)。このように本PoC機は、市況の変化にその都度応答することが出来る高速な応答性を有し、なおかつ極めて高い確率で最大利益率の取引機会を検出します。

環境変化に応じて最も合理的なアクションを瞬時に実行するシステムは、金融資産の高速取引、動的リスクアセスメント、取引コストの最適化などの金融分野への応用、また、産業用ロボットが周辺状況に応じて最も効率的な動作をリアルタイムに選択することや、発電量が刻々と変化する再生可能エネルギー電源の活用につながる高速な電力取引、災害時の被害を最小化する配電網の動的制御などさまざまな分野で活用され、イノベーションを起こすことが期待されます。

今後、当社は、組合せ最適化問題を高速・低遅延に解くことを核とする金融ソリューションの研究開発を進め、東芝デジタルソリューションズ株式会社と共同で、Fintech分野において新規事業開発に取り組むとともにこれらの研究開発、新規事業開発を推進するため、金融工学分野のエキスパート人材を募集します。また、当社は、金融以外の応用分野においても革新的な瞬時最適応答システムを研究開発してまいります。

図1:SBアルゴリズムに基づく外国為替の裁定取引マシンのPoC機

図2:本PoC機が検出した裁定機会の利益率(特定の5秒間の状況を表示)

図3:本PoC機の応答速度(A)と解精度(B)

(注1)東芝による金融工学エキスパートの公募(於, ビズリーチ社) https://www.bizreach.jp/content/762

(注2)金融国際情報技術展「FIT2019」, https://fit-tokyo.nikkin.co.jp [東芝デジタルソリューションズ ブース番号:T02 セッション番号:G402-09]

(注3)TOSHIBA OPEN INNOVATION FAIR 2019 ,https://www.toshiba-iotfair.com/index_j.htm [ブース:先端技術コーナー セミナー番号:2B1W]

(注4)H. Goto, "Bifurcation-based adiabatic quantum computation with a nonlinear oscillator network," Scientific Reports 6, 21686 (2016).

(注5)世界最速・最大規模の組合せ最適化を可能にする画期的なアルゴリズムの開発について−物流・創薬など社会課題を短時間で解決するサービスプラットフォームの構築に向けて− https://www.toshiba.co.jp/rdc/detail/1904_01.htm

(注6)量子コンピューター研究から生まれた 組合せ最適化の新解法 https://www.toshiba-clip.com/detail/7685

(注7)H. Goto, K. Tatsumura, A. R. Dixon, "Combinatorial optimization by simulating adiabatic bifurcations in nonlinear Hamiltonian systems, " Sci. Adv. 5, eaav2372 (2019). https://advances.sciencemag.org/content/5/4/eaav2372

(注8)[東芝デジタルソリューションズ] 大規模組合せ最適化を高速に実行するソフトウェア「シミュレーテッド分岐マシン」をAWS Marketplace上に公開 〜さまざまな分野での社会課題の解決に向けて実証実験を開始〜 https://www.toshiba-sol.co.jp/news/detail/20190717.htm

(注9)シミュレーテッド分岐アルゴリズムの専用大規模並列処理回路を開発−高速に変化する環境にリアルタイムで応答できる組合せ最適化ソリューションを提供し、金融、ロボティクス、物流、創薬などの社会課題を解決− http://www.toshiba.co.jp/rdc/detail/1909_03.htm

(注10)K. Tatsumura, A. R. Dixon, H. Goto, "FPGA-based Simulated Bifurcation Machine," In proceedings of The International Conference on Field-Programmable Logic and Applications (FPL), pp.59-66 (2019)

(注11)W. Soon, and H. Q. Ye. "Currency arbitrage detection using a binary integer programming model." International Journal of Mathematical Education in Science and Technology 42, pp. 369-376 (2011).

(注12)Field-Programmable Gate Arrayの略称。演算処理集積回路の一種で、製造後にユーザーが用途に応じて機能を書き換えることが可能。20nm世代の半導体プロセスで製造されたIntel Arria10 GX1150 FPGAを使用した。

(注13)辺に重み(コスト)が付いているグラフを、重み付きグラフと呼ぶ。通貨間裁定機会の検出問題は、通貨交換レートを重みとする重み付きグラフにおいて、重みの総乗(利益率)が最大となる経路を探索する問題として定式化することが出来る。

(注14)Data source: Integral Development Corp. https://www.truefx.com/?page=downloads [Under the permission from Integral Dev. Corp.] 2019年1月のデータを使用。検出確率は全期間に亘る平均値。


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