japan

東芝トップページ > 企業情報 > 研究開発・技術 > 研究開発センター > 研究開発ライブラリ > 信州大学と東芝、がん細胞に正確・高効率に治療遺伝子を運ぶ「がん指向性リポソーム技術」を共同開発 −T細胞腫瘍において、正常T細胞に比べて400倍以上の治療遺伝子の発現を実現−

ナノ材料

ロゴ

2020年5月29日
国立大学法人 信州大学
株式会社 東芝

信州大学と東芝、がん細胞に正確・高効率に治療遺伝子を運ぶ
「がん指向性リポソーム技術」を共同開発
−T細胞腫瘍において、正常T細胞に比べて400倍以上の治療遺伝子の発現を実現−

国立大学法人信州大学(長野県松本市、学長:濱田州博 以下、信州大学)医学部小児医学教室の中沢 洋三教授らの研究グループと株式会社東芝(本社:東京都港区、代表執行役社長:車谷 暢昭 以下、東芝)は、遺伝子治療*1向けに、東芝独自のナノサイズのカプセルである生分解性リポソームに内包した治療遺伝子を、標的であるがん細胞に正確・高効率に運ぶ「がん指向性リポソーム技術」を開発しました。本技術は、東芝独自の生分解リポソームによって、細胞内で治療効果を発揮する治療遺伝子をがん細胞へ正常細胞よりも選択的に運ぶことができます。がんの一種であるT細胞腫瘍(T細胞型急性リンパ性白血病*2)への治療遺伝子の運搬において、正常T細胞と比較して、30倍以上の運搬量と、400倍以上の効果(遺伝子発現量)を達成しました。
本技術は、患者への負担が少ないがんの治療を可能とするだけでなく、他の治療が難しいがんにも高い治療効果が期待できます。信州大学と東芝は本技術を、5月12日からWeb開催された米国遺伝子細胞治療学会(ASGCT 2020)で発表しました(発表者 齋藤章治講師)。

がんは1981年以降一貫して日本人の死亡原因の1位*3であり、2018年のがんによる死亡者数は約37万人、2017年のがんにより死亡する生涯の確率は男性25%(4人に1人)、女性15%(7人に1人)に上ります*4。がんを患っても、効果の高い治療によって生存率を向上することは社会的に重要な課題です。
近年、次世代のがん治療法として遺伝子治療の有効性が注目され、実用化が始まっています。がん遺伝子治療は、治療遺伝子を標的のがん細胞の中に運んで細胞の機能を修復・増強する治療で、治療が難しい種類のがんにおいても高い治療効果が期待されています。遺伝子をコードする核酸は細胞膜を透過できないため、遺伝子治療では通常、細胞の中に治療用遺伝子を導入する運搬体が使用されます。治療遺伝子が細胞内に運搬されると、遺伝子情報が生体内で機能する遺伝子発現が起こります。遺伝子治療においては、標的細胞における治療遺伝子の運搬量と遺伝子発現の量がその効果を最大化する上で重要な要因となります。

現在の遺伝子治療では、この運搬体にウイルスが用いられることが多く、安全性や標的性に課題もあります。遺伝子治療の普及のためには、標的とする細胞に安全、かつ効果的に治療遺伝子を運搬する技術の開発が不可欠です。
そこで、信州大学と東芝は、ウイルスを使わない治療遺伝子の運搬体として生分解性リポソームを活用する共同研究により、がん細胞へ安全、かつ選択的、高効率に治療遺伝子を運ぶ「がん指向性リポソーム」を開発しました。東芝独自の素材技術である生分解性リポソームは、細胞の中でのみ分解する独自の脂質を主成分としており、ウイルスを使用せずに細胞の中へ遺伝子を運搬することができます。さらに、細胞の細胞膜の特性に応じて、独自の脂質の配合を制御することで、標的とする特定の細胞に効率よく治療遺伝子を運搬することに成功しました。これにより、T細胞腫瘍への治療遺伝子の運搬において、正常T細胞と比較して、30倍以上の運搬量と、400倍以上の遺伝子の発現量を達成しました。
「がん指向性リポソーム」に治療遺伝子を内包し、T細胞腫瘍を移植したマウスに投与する実験では、腫瘍の増大が抑制され、治療遺伝子が腫瘍細胞に効率よく届くことを確認しました。
T細胞腫瘍の再発・治療不応例に対しては有効な治療法がないことから、今後も新しい治療の開発に繋がる研究を継続していきます。

図1:本共同研究で目指す遺伝子治療用生分解性リポソーム技術

図2:T細胞腫瘍マウスに対するがん指向性リポソームの効果検証

信州大学のがん研究と東芝の材料研究を融合することで開発したツールである「がん指向性リポソーム」は、遺伝子治療の普及に向けた課題を解決するために、さらなる指向性の向上および適用範囲の拡大を進めてまいります。

(*1)遺伝子治療
ある遺伝子を細胞内に入れ、その遺伝子が作り出すたんぱく質の生理作用により細胞の機能を修復、増強、または抑制することで病気を治療する方法。

(*2)T細胞型急性リンパ性白血病
急性リンパ性白血病は、骨髄において未熟なリンパ芽球(白血病細胞)が異常増殖する血液がんの1つである。大きくB前駆細胞型とT細胞型に分類され、T細胞型は小児では約10-15%、成人では約20-25%を占める。

(*3)がんは日本人の死亡原因の1位
平成30年の死亡数を死因順位別にみると、第1位はがん(悪性新生物<腫瘍>)で37万3547人(死亡率(人口10万対)は300.7)、第2位は心疾患(高血圧性を除く)で20万8210 (同167.6)、第3位は老衰で10万9606人(同88.2)、第4位は脳血管疾患で10万8165人(同87.1)。
主な死因の年次推移では、がん(悪性新生物<腫瘍>)は一貫して増加し、1981年以降現在まで死因順位は第1位。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai18/dl/gaikyou30.pdf

(*4)2018年の死亡者数、2017年の累積死亡リスク https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

報道機関からのお問い合わせ先

国立大学法人 信州大学 医学部小児医学教室 中沢 TEL:0263-37-2642
株式会社東芝 広報室 小林、蝦名、山本 TEL:03-3457-2100


  • 「研究開発センター」のトップへ
  • このページのトップへ