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研究者紹介 バックナンバー2015

第一線で活躍している研究者と研究をご紹介

“2つのスピーカーで立体音響を実現する” 立体音響技術 染田 恵一郎 機械システム部門 2010年入社 電気電子工学専攻

研究の内容:シンプルで汎用性のある立体音響

入社以来、スピーカーのないところからあたかも音が聞こえてくるように錯覚させる立体音響技術を研究しています。最もシンプルなシステムでは、前方に置かれた2チャンネルのスピーカーから上手に音を出して、後ろから音が聞こえてくるようにすることができます。
普段聞こえてくる音はどこから来るのか、それを人間の脳はどのように認識しているのか。音波は頭や耳たぶで複雑に反射回折してから私たちの耳の中に入ってきます。すなわち、届いてくる音の方向によって、その波形は変わります。その変わり方を、今までの経験から脳が記憶しているので、その記憶と照合して、こういう音が聞こえてきたときは右正面から来る音だな、とか、こういう音の聞こえ方は後ろだな、と判断しています。頭や耳の形は皆異なるので、人それぞれ独自の音波の変わり方で、音の方向を判断していることになります。  現在一般的に立体音響の技術開発で用いられているのは、ダミーヘッドと呼ばれる人間の頭と耳を模した装置です。その多くは欧米製で、欧米の人の頭と耳の形をベースに作られています。自分はダミーヘッドと頭や耳の形が似ているためか、ダミーヘッドに合わせて調整された立体音響でも立体的に聞こえますが、同じ音を聞いても、全く立体的に聞こえない人もいます。そこで私が考えたのは、人の頭や耳の形による音の変わり方を忠実に再現するという方法論から離れてみるというアプローチです。もっと別の音波の加工方法によって、より音の方向が判りやすくできる可能性があるのではないか、という研究をしています。

染田 恵一郎の写真

シンプルで汎用性のある立体音響の図

会社について:未来の音響から、直近の騒音制御まで

大学の学部3年間は電磁気学など電気系の勉強をしていて、立体音響に出合ったのは研究室のときでした。卒業/修士論文では立体音響がテーマでしたが、実際にやったことはC言語のプログラミングによる数値解析が中心で、聴感実験などの機会はありませんでした。音響測定方法や制御方法を本格的にやり始めたのは入社してからです。
東芝を志望した直接のきっかけは、先輩が学校に来て会社の紹介をしてくれたことです。特に自分で枠をはめずにいろいろな会社を見て回りましたが、東芝は世の中にさまざまな製品を出していて、それに関われるところが魅力的です。現在の自分の主な研究テーマは立体音響ですが、他にも技術的に取り組んでいるテーマは沢山あって、先輩と協力しながら進めています。たとえば、東芝の幅広いジャンルのどの製品にも、空冷ファンなど音が出る部品が含まれています。すなわち、設計試作の最終段階で騒音が問題になりがちです。そこで、工場に出向いて試作品の音を測定し、「ここが原因なので、こうしてください」ということをアドバイスするのも重要な仕事のひとつです。

染田 恵一郎の写真

毎日の生活:自説をプログラミングし、実測する

音を聞いたり測ったり、自分で実験するのも楽しいですし、プログラムを書く作業も好きです。どちらか一方だとちょっと辛いですね。バランス良くやっていると気分転換になります。
ダミーヘッドから導きだされた音の伝達関数のデータから周波数特性をグラフ化してみると、確かに音のやってくる方向によって音のスペクトルが違っていて、この違いをヒントに人が音の方向を判断していることがわかります。頭と耳の形は複雑なので、このスペクトルは山や谷の多い複雑なグラフです。その山と谷がダミーヘッドと一致する人もいれば、一致しない人もいるので、音の波形の加工のしかたを工夫しないと、音響効果に個人差が出てきてしまいます。
私の理論はなだらかなスペクトルを使うので、人によって当たり外れがそれほど無いだろうと予想して研究しています。ひとつのフィルタを使って、できるだけ多くの人に立体音響を感じてもらうのが理想です。なかなか自在に立体音響を感じてもらうところまでは至っていませんが、研究チームのメンバーに聞いてもらったところでは、ダミーヘッドに合わせて調整した音より、私の提案した方法のほうが立体的に聞こえる、という感触は得られています。この方式を何と呼ぶか、名前を決めておいた方がいい、と上司からも言われています。

染田 恵一郎の写真

学生の皆さんに一言

学生の皆さんに一言!『ひとつ何かに夢中になってやり遂げるという経験をしてください。』

学生時代の体験で良かったと思うのは、7年続けた合唱です。混声合唱の指揮者をしていましたが、男女の人数比が8:2の合唱団でした。市販の合唱用の譜面では女声が少なすぎて上手く響かないので、自分で編曲して譜面を書きました。このような創意工夫や、スケジュールや締め切りのある中で何をすべきかを夢中になって取り組むということを通じて、仕事にも役立つスキルが身に付いたと思います。譜面を書き直すのは大変ですが、プログラミングに似ていて楽しいんですよ。