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東芝の技術がヒッグス粒子の発見に貢献

ヒッグス粒子発見に貢献した東芝の超電導技術

今回は、ヒッグス粒子発見に貢献した東芝の超伝導技術について、機器装置設計担当の水牧祥一氏に話を聞きました。

ヒッグス粒子発見の舞台となった欧州合同原子核研究機構(CERN)と東芝

水牧祥一氏
CERNへ納品した装置の製造から現地据付工事までを振り返って頂きました

CERN(スイス)においてヒッグス粒子の発見などを目的として、全周27kmに及ぶ円形トンネルの中で光に近い速度の陽子同士を衝突させる加速器実験施設LHC(Large Hadron Collider)が建設され、高度な技術を使って衝突実験が行われています。

東芝は、1950年代から加速器*1の開発に取り組んでおり、高エネルギー加速器研究機構(KEK)などの研究機関へ装置を提供してきました。ここでの技術や実績が認められ、「アトラス粒子検出器用超伝導ソレノイド*2」と、「ビーム収束用4極超伝導マグネット(MQX-A)*3」をCERNへ納めています。

これらの装置が使用され、2008年9月に初めてのビーム周回・衝突実験に成功し、2012年7月にヒッグス粒子とみられる新粒子の発見が報告され、2013年10月には、発見された粒子がヒッグス粒子であることが報告されました。

この実験の成果が認められ、ヒッグス粒子を提唱したヒッグス博士らの2013年ノーベル物理学賞の受賞が決定しました。


アトラス検出器組立中の風景(左)、京浜事業所にて製造中のソレノイド(中央)、MQX-Aとカットモデル(右)

*1 加速器:電子や陽子などの粒子を光の速度近くまで加速して高いエネルギーの状態を作り出す装置
*2 粒子検出器用超伝導ソレノイド:粒子の衝突によって発生した素粒子を識別するために、必要な磁場を発生させるマグネット
*3 ビーム収束用4極超伝導マグネット(MQX-A):陽子同士を効率的に衝突させるために陽子ビームを1点に絞り込むマグネット

ヒッグス粒子発見に貢献!東芝の技術とは?


巨大シリンダーの内側に正確にコイルを巻く技術

「ソレノイドの製造に必要な技術は、超伝導、コイル巻線・絶縁、加工、アルミ溶接技術等でした。」と水牧氏は語ります。

光に近い速度の陽子同士の衝突によって様々な素粒子が発生します。衝突によって飛び散る素粒子の磁場中での飛跡やエネルギーなどを測定することにより、素粒子の識別を行います。

ソレノイドは、粒子の識別に必要な磁場を発生させる役目を担っており、陽子の衝突点である直径2.3m、長さ6.3mの円筒の中心に2万ガウス*4の磁場を発生させることが求められました。また、粒子を識別する検出器は、ソレノイドの外側にも配置されているため、ソレノイドは物質的に透明に近い*5ことが同時に求められました。

これらの要求に応えるため、主材料にアルミを用いることで透明性を高め、同時に1層巻きコイルとすることによって寸法的にも薄肉の構造を採用しました。1層巻きコイルで2万ガウスという強い磁場を発生させるためには、7600アンペアという大電流を流すと同時に、発生する強大な電磁力に耐える必要があるため、超伝導導体をシリンダーの内側に直接巻き付ける内巻き法が採用されました。

外側にコイルを巻くことは容易ですが、強大な電磁力に耐えられるよう、精密にシリンダーの内側に導体を巻く技術は、東芝にしかない製造技術なのです。


衝突で発生した粒子は、ソレノイド本体をすり抜け、その外側にある検出器にも到達

ソレノイドは、内直径約2460mm×厚み45mm×長さ5.3mで、その質量は6トンになり、超伝導状態にするために液体ヘリウム温度(マイナス273.15℃)まで冷却する必要があります。このソレノイドの冷却は、シリンダーの外周面に取付けられたアルミ配管に液体ヘリウムを循環させることにより行われます。アルミ配管はCERNでの据付工事においていろいろな場所で溶接接続する必要がありましたが、その作業空間が非常に狭いため、専用の自動溶接機を開発しました。溶接が難しいアルミながら、厳しい検査基準をクリアする溶接技術も東芝が持つ高い製造技術の一つです。


製造中のソレノイドと水牧氏

「ソレノイドの現地搬入後、受入試験やCERNの測量チームによる寸法サーベイを受けました。このときは、ソレノイドに携わった多くの方々に対する感謝の気持ち、そして子供を世の中に送り出す時のような嬉しさと心配が混ざった気持ちでしたが、手塩にかけ、「魂」をこめて育てたソレノイドですから、“絶対大丈夫”という自信も持ちながら、見守っていました。」と水牧氏は振り返ります。

*4 2万ガウスの磁力を持つソレノイドを棒磁石に見立てると、50トン以上の物質(例えばディーゼル機関車)を持ち上げることができる。
*5 ソレノイドの外にも粒子を識別する装置があるため、ソレノイドの外へ粒子を通過させる必要があった。

世界から評価された東芝の技術


ATLAS Supplier Awardの表彰状(左)と、CERN Awardの表彰楯を持つ水牧氏

CERNへの据付・稼働後、トラブルの連絡も無く、東芝のマグネットは稼働し続けました。

「アトラス検出器への組み込み後もソレイドは順調に稼働し、現地の関係者からは、『順調に稼働していて、今では存在すら意識されていないほどです』とのコメントを頂き、自分の手がけた装置が機能を発揮し、歴史的な発見に寄与したことは、技術者としてとても嬉しく、誇りに思っています。」と水牧氏。

また、東芝は、2002年にATLAS Supplier Award、2010年にCERN Awardを受賞しています。
これらの受賞は、CERNとKEKの両研究所から、LHC建設に対する大きな貢献を認められたことを意味します。

CERNで行われている実験は、今後多くの謎を解明することでしょう。 そして、ヒッグス粒子の発見に貢献した東芝の技術。実はこの技術は私たちの生活にも役に立っている技術です。

次回は、加速器実験施設LHCに組み込まれたもう一つの装置MQX-Aについてと、少し視野を広げて加速器が私たちの身の回りでどのように利用されているかをご紹介します。ご期待下さい。

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