Japan

東芝の技術がヒッグス粒子の発見に貢献

もうひとつの東芝の超伝導技術と加速器を用いた実験

今回は、前号で紹介したソレノイドとは別の磁場発生マグネット「MQX-A」と、加速器技術と我々の生活との関係をご紹介します。 機器装置設計担当の折笠朝文氏と、電力・社会システム技術開発センターの佐野雄二氏に話を聞きました。

ヒッグス粒子発見に貢献したもう一つのマグネット「MQX-A」


佐野氏(左)と折笠氏(右)に話を聞きました

CERNのLHC加速器実験施設では、陽子ビームを効率良く衝突させるため、衝突点に向かってビームを1点に絞る必要があります。このビーム収束には4極の超伝導マグネットを使用し強力な磁場を作り出す必要があります。

LHC加速器の円周上に並べられている多数の超伝導マグネットの中で、ビーム収束用の4極マグネットは最も製作難易度が高いと言われていますが、東芝は、計18台の4極超伝導マグネット「MQX-A」をCERNに納品しました。


MQX-Aは陽子衝突点の前に設置されている


京浜事業所にて製造されたMQX-A(左)、断面(右)


MQX-Aの断面 超伝導マグネットを4極に使用することで陽子ビームを中心に絞ります



京浜事業所にて製造中のMQX-A


MQX-Aの構造 自走式巻き線機によって4極の表面にコイルを巻き付ける高度な技術

MQX-Aは、外径47cm、全長7mで、中心に直径7cmの陽子ビームの通り道が貫通した構造をしており、重量はトータル8.5トンです。磁場は超伝導線に7150アンペア*1の電流を流すことで発生させます。そして高効率の超伝導状態を作り出すためには低温状態が必要となり、液体ヘリウムによりマイナス271℃に冷却されて使用されます。

MQX-Aの第1の要件は、最大磁場約9万ガウス*2と言うものでした。これは超伝導コイル以外では発生することが出来ません。さらに、電流を流すことによってコイルに生じる電磁力も300気圧を超す強いものとなるため、コイルを強固に固定する電磁力支持が必要となります。また、超伝導を実現するための冷却(マイナス271℃)により、全長7mのマグネットは所によっては2cm程も縮みます。 このような収縮も考慮しながら、低温でも強度の高い材料を使用するなど工夫を行い、設計が行われました。

第2の要件は、陽子ビームをピンポイントで衝突させるために、設計された磁場の形と実際の磁場の形を一致させることが求められ、超伝導コイルの設計位置と実際の巻付け位置のずれが50ミクロン*3以下となる様に製作することでした。この高い精度を実現するため、各部品は10ミクロン単位での製作精度で設計・製作されました。

「18台のMQX-Aを、東芝が独自に開発した自走式巻線機などを使い、6年間で作り上げました。長期間にわたり高い精度・品質で同じ装置を作れるのも、東芝ならではの製造技術と言えます。」と折笠氏は語ります。

高い技術要件をクリアするだけではなく、高い精度・品質を保ちつつ、同じものを製造できたのも、東芝だからこそできたことなのです。

*1 一般家庭で使用する電流10A程度と比較すると500倍以上。
*2 9万ガウス=9テスラ。磁力の大きさを表す単位。1m2当り1テスラで約40トン、9テスラでは約3000トンの磁性物質(例えば鉄)を持ち上げることが可能。
*3 ミクロン=マイクロメートル。1000分の1ミリ。

チーム力で困難に立ち向かう

「MQX-Aの製造はKEK殿の協力なくしては実現しませんでした。6年に及ぶ製造期間中はKEK殿と東芝の間でチームワークの様なものが出来上がっていました。このことは現場の士気を上げると共に、品質管理上も大変有効であったと思います。関係者が全員同じベクトルで仕事を進めることが出来ました。」と折笠氏は振り返ります。

加速器を用いた実験が我々の生活をより便利に

ヒッグス粒子を発見したCERNの加速器に東芝の技術は大きく貢献していますが、日本でも、兵庫県にある「大型放射光施設(SPring-8)」や、愛知県にある「あいちシンクロトロン光センター」などの研究機関の加速器に東芝の技術が貢献しています。では、これらの加速器ではどのような実験が行われているのでしょう?


加速器を用いることでより詳細な構造が観察できる

加速器を用いることで、様々な粒子や光を作ることができます。例えばSPring-8では、X線*4という波長の短い強力な光を作ることができ、原子レベルの構造や、100億分の1秒の変化を観察することができます。これらの特徴を活かして、小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った微粒子の分析に用いられているほか、タンパク質の構造を調べることで、病気の原因となる物質や花粉症などのアレルギー反応の原因を突き止める研究が行われており、新薬の開発につながるかもしれません。


金属強化技術(レーザーピーニング)の様子

東芝も加速器を用いた実験を行っています。
「東芝ではレーザーを使って金属を強化する技術*5を開発していますが、SPring-8では外からは見えない部分の金属疲労や、ものが壊れていく過程を分析し、どのようにレーザーを照射して金属を加工すればより強く軽いものが作れるかを検証しています。」と佐野氏は語ります。

「すでに発電所のタービンの動翼の根本を強化する手法としてこの技術が用いられていますが、今後実験が進み、より強くて軽い新材料の開発に成功すれば、我々の生活をより豊かにできるかもしれません。」と佐野氏は続けて語ります。

*4 1nm(10億分の1m)ぐらいから数百分の1nmほどの波長の電磁波。物質を透過する特徴があり、レントゲンなどで用いられる。
*5 レーザピーニングと呼ばれる東芝独自の技術。

ヒッグス粒子の発見に貢献した東芝の加速器の技術は、目に見えないところで私たちの生活を支えています。 では、今後加速器を使った実験・研究が進みさらに技術が進歩していくと、どのような未来が待っているのでしょう?最終回となる次回は、これまでの東芝の加速器技術の歴史から展望をご紹介します。ご期待ください。

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