加速器科学の新展開に向けて

上坪 宏道


 X線を発見したレントゲンに対する第1回ノーベル物理学賞の授賞で始まった20世紀は, 物理科学が急速に発展した時代でした。特に相対論や量子力学の発展で, 自然界の基本的な構成要素は原子核から素粒子へさらに小さくなり, 物質の構造やその性質も原子レベルで明らかにされてきました。 20世紀の後半には,物理科学の成果の上にマイクロエレクトロニクスやレーザなど新技術の花が開き, 鉄鋼など既存材料の高性能化とともに化学工業の発展による新材料も多数開発されて, 私たちの生活は一変して豊かで便利になりました。 しかし,同時にこれらの技術が生み出した環境破壊で将来に対する大きな不安感が出ています。 21世紀の人類は"自然と調和した心豊かな社会"の構築という大きな使命を負っており, その実現には生命科学と材料科学の発展が重要なかぎとなっています。

 この数年間にわが国では,HIMACSPring−8という画期的な加速器施設が稼働しました。

HIMAC

SPring-8全景

前者はがん治療の専用施設として, 後者は生命科学・材料科学にとってもっとも重要な基盤的研究施設として建設された高エネルギー加速器です。 加速器は本来原子核・素粒子研究用に開発されましたが, 今やこの2施設における成果が来世紀の"自然と調和した心豊かな社会"の構築に重要な役割を果たすと言われるほどになり, その目的達成に必要な高性能加速器が開発されました。特にSPring−8は, 蓄積電流とその寿命,エミッタンス,制御性, 安定性などの面でこれまで建設された大型加速器では群を抜いた高い性能を実現しており, 世界最高のX線領域放射光源として評価されています。その建設にあたった者として私は, SPring−8がわが国産業界の技術を結集して完成したことに大きな誇りを感じています。

 これまで,わが国は「欧米に追いつけ」を目ざして進んできました。 大型計画を立てるときも「世界の潮流を調査して, その中でもっとも良さそうなものをうまく取り入れて実行する」という風潮が支配的でした。 しかしこれからは「誰もやっていないから行う価値があるのだ」という気概で, 基礎的なR&Dを重視し,失敗を克服することを評価する社会を作ることが必要になっています。


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