世界最大の蓄積エネルギーを実現した高温超電導マグネットの開発について

2001年5月15日

マグネット消費電力を従来の1/3とするシリコン単結晶引上げ装置用高温超電導マグネットシステムを完成

株式会社 東芝
住友電気工業株式会社
信越半導体株式会社

 株式会社 東芝、住友電気工業株式会社、信越半導体株式会社の3社は、共同で、世界最大の1,100kJ(キロジュール)の蓄積エネルギーを持ち、温度20K(-253℃)前後での運転が可能な高温超電導マグネットを開発しました。

 これは、経済産業省の補助金(注)を得て、シリコン単結晶引上げ装置向けの超電導マグネットの開発を進めてきた成果によるもので、大型化の進むシリコン単結晶引上げ装置向けに、液体ヘリウムを用いずに極低温冷凍機による簡易な冷却システムで超電導マグネットの利用を可能にしました。 従来の液体ヘリウム冷却式に比べ、約3分の1の3.3kWの消費電力を実現できる高温超電導マグネットシステムを構成できます。
 また、開発した高温超電導マグネットは、20K前後での高温運転が可能なことに加え、世界最大の1,100kJの蓄積エネルギーと、コイル中心磁場1.5T(テスラ)(15,000ガウス)を実現しており、超電導マグネットの産業界での幅広い応用に向け大きな前進となります。 今後、医療用MRI、鉄鋼、磁気浮上鉄道などの産業分野や、超電導エネルギー貯蔵、超電導ケーブルといった電力応用への適用などが期待できます。

注: 経済産業省のエネルギー使用合理化関係技術実用化開発費補助金

 共同開発した超電導マグネットは、超電導導体として、臨界温度が110Kと高温での動作が可能な、AgシースBi2223線材(ビスマス系の高温超電導材料((Bi,Pb)2Sr2Ca2Cu3Ox)を銀のさやに収納した線材)を用いています。 従来は、大型コイルに必要な長尺線材の製作や、これを接続し巻線したコイルの製作が困難であったため、産業用途に利用できる高温超電導マグネットの製造ができませんでした。
 今回の共同開発では、超電導導体の線材開発で実績のある住友電気工業が、高温超電導線材の高性能化・長尺化・高強度化開発と製造を、超電導マグネットの開発・製造で実績のある東芝が、 高温超電導マグネットの設計製造技術の開発と試作を、超電導マグネットを用いた単結晶引上げ法を初めて実用化した信越半導体が、単結晶引上げ装置用マグネットとしての実用性の検証を担当しました。
 今回の開発プロジェクトを通して、以下の要素技術を確立しています。

(1) 大型マグネットに必要な高温超電導線材として、長尺化の面で1,900mと世界最長の線材を開発するとともに、 マグネットに必要な800m級線材として液体窒素温度77Kで最大34kA/cm2の臨界電流密度を有し、使用時の大きな電磁力に耐えうる高強度の線材の量産技術を開発しました。
(2) 超電導性能の付加逆な劣化の原因となる線材のひずみをごく微小に抑えるために、張力を最適に制御しながら均一な巻線をすることが可能な、低張力制御の巻線装置を開発しました。 また、低抵抗の超電導導体の接続技術も開発しました。 これにより、ひずみに弱いテープ形状の高温超電導体線材を、総長80kmにわたり安定して巻線・接続することができるコイル製造技術を確立しました。
(3) コイル全体の形状を薄い円盤状にすることで、個々の高温超電導線材の形状(テープ状)に対する磁場の方向によって生じる臨界電流値の減少を最小限に抑え、 従来方式の厚いドーナツ形状のコイル設計時に比べ、線材量を8割以下に低減するとともに、大型の高温超電導コイルを均一に冷却する技術を開発しました。 また、個々の線材の特性に応じた最適なコイル積層技術を開発するなど、コイル性能の向上を実現する最適設計技術を確立しました。

 これらの技術開発により、ランニングコストのかかる液体ヘリウム冷却式を使わずに大きな省エネルギー効果が実現でき、シリコン単結晶引上げ装置のような産業用途に必要な実用規模の出力を備えた大型の高温超電導マグネットの開発に世界ではじめて成功しました。
 なお、本プロジェクトの遂行に関しては、財団法人国際超電導産業技術センター超電導工学研究所の田中昭二所長に、技術的な助言や指導を受けました。

 本開発成果は、5月16日から明星大学日野キャンパス(東京都日野市)で開催される2001年度春季低温工学・超電導学会で発表の予定です。


開発した高温超電導マグネットの特長
開発にあたっての技術的背景


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