世界初の100ナノメートル世代低消費電力仕様SOC向けMOSFETの開発について

2001年12月5日

次世代携帯電話向けDRAM、アナログ混載SOCの実用化技術を確立

 当社は、ソニー株式会社(以下ソニー)と共同により、世界で初めて100ナノメートル世代の低消費電力仕様SOC(System on Chip)向けMOSFET(MOS型電界効果トランジスタ)の開発に成功しました。当社は、本技術を用いて、次世代携帯電話向けにDRAMやアナログ回路を混載したシステムLSIの製品化を進めます。

 第3世代以降の次世代携帯電話は、ブロードバンドでの情報通信が可能となることで多機能・高性能な端末となるため、(1)待ち受け状態での消費電力が少なく、(2)動画など大量のデータを扱うためDRAMが混載されており、(3)ベースバンド信号処理のためにアナログ回路が混載されていることが要求されています。

 システムLSIは、デザインルールの微細化により、高速化と集積化を図ってきましたが、微細化が進むにつれオフリーク電流(待機時漏れ電流)の抑制が困難になってきています。今回開発した技術では、低消費電力仕様SOC向けMOSFETとして形成プロセスの最適化により、オフリーク電流を3ピコアンペア/マイクロメートル(ピコ=10-12)に抑えると同時に、スイッチングスピードでもCV/I=10.8ピコ秒の高性能を達成しました。この値は、オフリーク電流を前世代(130ナノメートル世代)と同等に抑えながら、パフォーマンスではそれを上回るものです。

 なお、当社は今年5月から、ソニー株式会社と共同により、100ナノメートル、70ナノメートル世代のシステムLSIにおける最先端プロセス技術の開発を行っています。

 また、今回の成果については、12月3日から米国ワシントン市で開催しているIEDM(国際電子デバイス会議)において、本日(米国時間12月4日)に、ソニーと当社が共同で発表しました(論文名「MOSFET Design of 100nm Node Low Standby Power CMOS Technology Compatible with Embedded Trench DRAM and Analog Devices」)。

開発の背景

 最先端システムLSIにおいては、低消費電力化や高性能化などを実現する、次世代プロセスによる微細化、高集積化技術やプロセスにリンクした設計技術を開発することが必要となります。

 当社は、すでに、100ナノメートル世代のブロードバンドネットワーク用高速動作仕様SOC向けMOSFETを開発しており(2001年6月開催のVLSIシンポジウムで発表)、今回開発した技術とあわせ、次世代SOCに必要な、高速動作と低消費電力の両方のプロセス技術を確立しました。

開発の概要

 次世代携帯電話向けに、MOSFET形成プロセスについて以下の3つの最適化をはかることで、低消費電力、DRAM混載、アナログ回路混載を実現するためのプロセス的制約を解決しました。

  1. エクステンション、ハロー、チャネル形成プロセスの最適化

    一般的にMOSFET設計においては微細化、高性能化の観点からエクステンション、ハロー、チャネル構造はプロファイルを急峻にする方向ですが、急峻なプロファイルは接合部での電界を高くするためトンネルリークの増大を招き、100ナノメートル世代になるとリークを抑制することが困難となります。そこで高性能版とは別に低消費電力版向けにエクステンション、ハロー、チャネルのプロファイルを緩やかにすることによってトンネルリークを低減し3ピコアンペア/マイクロメートルのスペックに対して許容範囲にまで下げることができました。

  2. 拡散層形成プロセスの最適化

    MOSFETの設計自由度と構造の平坦性の観点からDRAM セルとしてトレンチ型のセルを採用しています。しかし、激しい熱工程を課すことができず、素子分離から発生する高い物理的ストレスを十分に開放することができませんでした。また、N拡散層にはヒ素が注入されており、高ストレス下にヒ素が存在すると結晶欠陥の生成により接合リークを引き起こします。そこで接合にヒ素ではなくリンのみを用いることによって接合リークを抑制することに成功しました。一方、リンを用いるとMOSFET性能は一般的には劣化しますが、プレドーピング技術を用いることでMOSFET性能を劣化させることなくトレンチDRAMを混載することを実現しました。

  3. ゲート絶縁膜形成プロセスの最適化

    ホウ素の突き抜けとゲートリーク抑制の観点から、通常ゲート絶縁膜には窒素が注入されていますが、アナログMOSFETの雑音特性の観点からは窒素は少ない方が望ましく、注意深い最適化が必要でした。今回の開発では、ゲートリーク、MOSFET性能、雑音特性の観点から絶縁膜厚と窒素濃度を最適化し、アナログMOSFETの雑音特性を劣化させることなくコアMOSFET性能を引き出すための最適化を行いました。これにより、アナログMOSFETの混載を実現できるプロセスを開発することができました。


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