ニュースリリース

光リソグラフィの限界性能を引き出すマスクパターン最適化技術を開発

精度20%向上、液浸ArFエキシマレーザー露光装置の延命へ
2010年02月15日

株式会社 東芝
独立行政法人 産業技術総合研究所

  株式会社 東芝(以下「東芝」)と、独立行政法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」)は、高密度集積回路(LSI)向け露光技術の精度を約20%向上できるマスクパターン最適化技術を共同開発しました。本技術により、現行の液浸ArFエキシマレーザー露光装置を1技術世代以上延命することが可能となります。

  今回開発した技術は、マスク上の非解像パターンの最適配置を決めるアルゴリズム(計算手法)であり、局所最適化を繰り返して効率的に最適解を得る「最適勾配法」の採用等により、寸法精度を約20%向上しています。非解像パターンは、メインパターンの転写像を変調させて解像度・寸法精度を向上させるサブパターンであり、その配置を最適化する計算は、露光精度が限界に近づくにつれて困難となり、精度向上の制約となっていました。

  東芝と産総研では、本成果について、2010年度中の実用化を目指して改良を続けます。なお、本成果については、2010年2月21日~25日に米国カリフォルニア州サンノゼで開催されるリソグラフィ国際学会SPIE(International Society for Optical Engineering)において、2010年2月25日(現地時間)に発表します。

開発の背景

  ArFエキシマレーザー光源による露光技術は、光の位相変調を利用する位相シフトマスク、水によって光の屈折率を高める液浸技術など各種高解像技術により、30nm世代まで延命されてきました。しかし、次の世代では液浸ArF露光が精度限界となり、2段階で微細な像を転写するArF2回露光や、より短波長なEUV露光への移行が必要との予測もあります。一方、液浸ArFエキシマレーザー露光装置のさらなる延命も期待され、東芝と産総研では、露光マスクの改良による延命を目指し、研究に取り組んできました。

開発の概要

  従来、非解像パターンの配置を決める計算手法として、メインパターンとの距離を規定した上で最適化する「ルールベース手法」や、光学系の非線形関数を用いて推定する「干渉マップ手法」、所望の転写パターンから逆演算する「インバースリソグラフィ」などの手法があります。しかし、それぞれ、パターン配置の多様性を欠く、高速だがパターンによっては最適配置からの微小なズレが生じる、処理時間が膨大になるという課題を抱えており、露光精度向上の障壁となっていました。
  今回、東芝と産総研では、非解像パターンを最適配置するための「最適勾配法」をベースとした独自アルゴリズムを開発しました。「最適勾配法」は、局所探索の代表的手法で、現在の解の近傍において最も改善される解を採用するという作業を繰り返し、効率的に最適解に到達できます。これにより、寸法精度は従来から約20%改善となる6nmを実現しました。また「干渉マップ法」と組み合わせることで、高精度化と高効率化の両立を実現しました。

(本技術による非解像パターン最適化の手順)

マスクパターン最適化の手順を示す図

用語の説明

  • 液浸ArFエキシマレーザー露光
    液浸露光とは、高解像度な回路パターンを形成するため、露光装置の対物レンズとウエハー間を液体で満たすことにより、縮小投影レンズの性能を大気中の限界値を超えるレベルにまで向上させる技術である。ArFエキシマレーザー露光とは、波長193 nmのArFエキシマレーザーを光源とした露光技術のこと。

  • 技術世代
    世界各国の有力な半導体製造メーカーや装置・材料メーカーそして大学からの有識者で構成された委員会によって定められた半導体技術のロードマップであるITRS(国際半導体技術ロードマップ:International Technology Roadmap for Semiconductors)において、半導体の微細化を表現する数値。テクノロジーノードとも言われる。

  • 非解像パターン
    露光による転写により、シリコンウエハー上では解像されない露光マスク上のパターン。露光光の位相特性を改善し、メインパターンによりシリコンウエハー上に転写される像を改善する効果がある。

  • アルゴリズム
    ある特定の処理や演算を行うための処理手順や計算手順を、論理的に示したもの。

  • メインパターン
    露光による転写により、シリコンウエハー上に解像される露光マスク上の回路パターン。

  • 解像度
    露光による転写により、シリコンウエハー上に解像されるパターンの最小寸法。

  • 寸法精度
    一般的にばらつきの度合いを表す3σ(標準偏差の3倍)が用いられる。

  • 露光精度
    露光技術における露光可能な限界寸法精度。

  • 露光技術(リソグラフィ技術)
    電子回路設計ツールで設計された回路パターンをシリコンウエハー上に形成するための印刷技術の1つを表す。光源からの光が、回路パターンが透過するように描画された露光マスクを通過し、縮小投影レンズを介して、シリコンウエハー上に形成された感光性樹脂(フォトレジスト)に転写される。

  • 高解像技術
    シリコンウエハー上に形成する回路パターン寸法が、光源波長よりも小さいため正しく転写できない現象を補うための技術。高解像技術と呼ばれるものには、位相シフトマスク、変形照明、液浸技術、光近接効果補正などがある。

  • EUV露光
    波長13.5 nmの極端紫外線を光源とする露光技術。

  • 露光マスク
    露光技術で回路パターンをシリコンウエハーに転写するための原版で、一般的には転写したい回路パターンを、光が透過する部分(ガラス基板のみ)と光が遮光する部分(ガラス基板に金属薄膜を形成)によって定義されたマスクパターンとして描画されている。