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技術情報

X帯※1で世界最高出力の窒化ガリウム・パワーFET※2の開発について

9.5GHz帯で 81.3Wの出力を達成

当社は、衛星通信基地局やレーダーなどで用いられるマイクロ波※3固体化増幅器向けの高周波・高出力素子として、9.5GHz帯で世界最高出力の81.3Wの出力を達成した窒化ガリウム(GaN)・パワーFETを開発しました。これにより、増幅器の高出力化、固体化、小型化が可能となります。

今回開発した窒化ガリウム・パワーFETは、結晶層構造とチップ構造を最適化することにより、発生する熱の分散と高周波である9.5GHz帯での特性を両立させ、X帯における世界最高出力を達成しました。
また、本FETは、マイクロ波固体化増幅器に現在用いられているガリウムヒ素(GaAs)・パワーFETに対し、約6倍の電力密度を実現しています。

当社では、本技術に基づき、X帯50W級FETの製造技術を確立し、サンプル出荷を開始しました。このサンプル出荷に続き、半年以内の量産化を目指します。

なお、今回の開発成果は、本日(米国現地時間11月12日)から米国テキサス州サンアントニオで開催される化合物半導体ICシンポジウムにて発表します。

開発の背景と狙い

近年の衛星通信の大容量化やレーダー到達距離の拡大に伴い、それらの用途に用いられる増幅素子は更なる高出力化が求められています。

当社では、マイクロ波通信用途として、6GHz帯で出力90W、14GHz帯で出力30Wのガリウムヒ素・パワーFETを既に製品化していますが、主として放熱性の問題と高周波での特性の両立の問題から、新たな材料の検討が必要となっています。

窒化ガリウムは、材料特性上、ガリウムヒ素以上に高い飽和電子速度と絶縁破壊耐圧を有していること、および高い動作温度を実現できることなどから、マイクロ波帯以上の高周波数で使用できる高出力増幅素子用材料として有望視されています。

当社では、C帯※4以上の高周波・高出力窒化ガリウム素子の開発に注力しており、昨年、6GHz帯で出力174Wの窒化ガリウム・パワーFETを開発しました。今回、結晶層構造とチップ構造を、より周波数の高い9.5GHz帯用に最適化することにより、この帯域における世界最高出力を達成しました。これにより、増幅器の高出力化、固体化、小型化が可能となります。

当社は、今回の開発成果を活かし、Ku帯※5以上のより高い周波数で動作するパワー FETの開発も積極的に進めてまいります。

新製品の主な特長

  • 1 結晶層構造

    今回開発したFETは、高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)構造を採用しています。窒化ガリウム層の上にアルミニウムガリウムナイトライド(AlGaN)層を成長させており、これらの層の積層構造を最適化することで優れた性能を実現しました。
  • 2 チップ構造

    1項で説明した結晶層構造を基に、FETのソース、ドレイン電極間の距離とゲート長および各電極への給電部の形状等をX帯での動作用に最適化し、発生する熱の分散と9.5GHz帯での特性を両立させました。
  • 図1
  • 今回開発したチップの断面写真
  • 今回開発したチップの断面写真
    *チップサイズ:3.4mm×0.53mm
  • 3 プロセス技術

    2項のチップ構造最適化に合わせ、熱処理条件の最適化等により、低抵抗なソース、ドレイン電極を実現しました。これにより、材料特性を最大限に引き出すことが可能となりました。
    また、FETをX帯で高性能動作させるためには、ゲート電極を0.5μm以下にまで微細化する必要があります。そのため、ゲート電極とその近くの動作層には、相対的に高い電界が印加されることになり、ゲート電極のリーク電流を抑制することが高性能化への必要条件となります。当社は、独自のゲート電極構造を採用すると共に、保護膜形成方法にも独自の工夫を行ないました。これにより、ゲートリーク電流を従来の30分の1(当社比)に低減することが可能となりました。
  • 4 パッケージ内出力合成

    窒化ガリウム素子開発においては、窒化ガリウムの材料特性を活かすために、大きなチップを大きな動作電圧で動作させて大電力を得ようとする方法が主流となっています。しかしながら、この方法では、チップからの発熱が問題となり、素子自身の特性劣化を招くと同時に増幅器製造上も大きな問題となります。また、窒化ガリウム素子は、チップの特性を均一に製造することが難しく、複数のチップをパッケージ内で電力合成すると、合成損失が大きくなり、良好な特性を得ることができませんでした。
    今回、3項に示すプロセス技術改善により、1枚のウェーハから多くのチップを均一に作ることが可能となり、さらにガリウムヒ素・パワーFET開発で培った高度な電力合成技術を駆使することにより、損失を抑えながら複数のチップをパッケージ内で電力合成する技術を確立しました。これにより、発熱源を分散させ、熱集中による特性劣化を抑えて、チップからの発熱の問題と高出力化を両立させ、X帯で80Wを超える高出力を実現しました。
  • 図2
  • 今回開発した素子のパッケージ写真
  • 今回開発した素子のパッケージ写真
    *パッケージサイズ(最外周寸法):
    21.5mm×12.9mm
  • 図3
  • 今回開発した素子の特性例
  • 今回開発した素子の特性例
  • 5 ステッパー露光の使用

    従来の窒化ガリウム素子開発においては、C帯以上の高周波用素子では露光プロセスで電子ビーム技術を利用することが一般的ですが、今回の開発では、素子構造を工夫するとともに、高度なプロセス制御技術を適用することによって、0.5μm以下のゲート長が要求されるX帯FETにおいても、先のC帯FET同様、量産性に勝るステッパー露光技術を用いました。
  • 以上
  • ※1 X帯:8~12GHzの周波数帯
  • ※2 FET:電界効果トランジスタ
  • ※3 マイクロ波:3~30GHzの周波数範囲
  • ※4 C帯:4~8GHzの周波数帯
  • ※5 Ku帯:12~18GHzの周波数帯

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2006.11.13 株式会社 東芝