4PLスペシャリスト「改善力」 ロジスティクスの枠を越え、
企業課題に食い込む改善力

ロジスティクスの枠を越え、企業課題に食い込む改善力

課題

  • 1 地域性と文化の違いで、計画どおりに物事が進みにくい
  • 2 倉庫の作業効率が悪く、お客様に製品をお届けするリードタイムがなんと9日間!
  • 3 KPIとなる数字の把握がされておらず、感覚で運営している
  • 1
    地域性と文化の違いで、計画どおりに物事が進みにくい
  • 2
    倉庫の作業効率が悪く、お客様に製品をお届けするリードタイムがなんと9日間!
  • 3
    KPIとなる数字の把握がされておらず、感覚で運営している

倉庫内のオペレーション改善やコンサルティングを担い、ときには依頼主企業へ駐在し、根本的な課題解決を目指す東芝ロジスティクスの4PL。そのフィールドは国境を越えます。東芝ロジスティクス株式会社 プラットフォーム事業部の坪倉 正和 氏は、2012年から2017年までの5年間に渡り、エジプト大手家電メーカーのロジスティクスを支援しました。
外部コンサルタントの立場で行った、オペレーション改善を通して見えてきた多くの課題。その解決のために依頼主企業に常駐するという手段をとり、内側からの解決に取り組みました。その結果、輸送費は5ヵ月で4万ドル以上の削減。作業員の意識改革も実現させることに成功しました。
国のカルチャーを越え、物流の枠を越え、東芝ロジスティクス(以下、当社)が発揮した改善力とは。坪倉 氏がプロジェクトを振り返ります。

信頼獲得の鍵は「神頼みの文化」への歩み寄り
SCMのプロジェクト化に成功する

――お客様との取引が始まったきっかけを教えて下さい。

お客様は、物流コストが日本円で年間28.5億円を誇るエジプトの大手家電メーカーB社。
2011年、株式会社東芝(以下、東芝)が、B社と共同で、エジプトに液晶テレビの製造会社C社を立ち上げました。その際C社の倉庫の改善を手掛けたのが、このプロジェクトのきっかけです。

――C社の改善を経て、お客様からはどのような反応をいただきましたか?

目に見える改善がなされたことで、B社からとても評価していただきました。さらに、「ほかの工場やエジプト国内の物流にも協力してほしい」との依頼もいただいたので、「プロジェクト化して、中近東でナンバー1のSCMを構築しましょう」と4PLを提案させていただきました。

――信頼が次の依頼へとつながったのですね。施策を実施する上で大変だったことはありますか?

施策を実施する上で大変だったこと

エジプト人の気質や地域性を理解するのに苦労しました。エジプト人の多くは敬虔なイスラム教徒。イスラム世界には「アッラー」という神がいて、日常的に「インシャアッラー=神に頼ります」という言葉が使われているくらいです。

例えば「このデータを明日までに出してほしい」とお願いすると「インシャアッラー」と返答されます。「はい」とは答えないんですよね。できるところまではやるけれど、できなくても「神がいいと言った」で済んでしまう。計画どおりに物事が進まずフラストレーションが溜まりましたが、それがエジプトの文化。慣れるまでに半年くらいかかりました。

施策を実施する上で大変だったこと

倉庫の改善に着手し、リードタイムを2日短縮

――倉庫の現場改善から着手されたそうですが、どのような課題があったのですか?

課題は大きく2点あって、1つ目がデリバリーまでのリードタイムが長いこと。大量の荷物を扱っているのですが、現場の作業効率が悪いために、出荷が追いついていませんでした。出荷依頼が来ても滞留するばかり。お客様に届けるまでには9日もかかっていました。
もう1つが、B社倉庫内の保管効率が悪いこと。繁忙期になるとスペース不足になり、在庫を入れる場所がないから追加生産ができない。市場の需要はあるのに、オペレーションが整流化されていないせいで、多くの販売機会を喪失していたのです。
初めて倉庫内を見た時は驚きましたね。すべて手作業で、冷蔵庫もパレットを使わず2段積みで格納していました。1人が上から引っ張って1人が下から持ち上げて。ピラミッドを作ってるのかと思いましたよ(笑)。でも、これが新興国では当たり前だったのです。
倉庫オペレーションの改善では、5Sを浸透させることからスタート。主要な3つの倉庫には30〜40台のフォークリフトを導入しました。

――どのような成果が出ましたか?

現場に“日本流“物流スキームを導入し、保管効率と作業効率を改善しました。
例えば、フォークリフトとパレットを使用したオペレーションで、今まで2段積みだった冷蔵庫が3段積みになり、洗濯機も3段積みが4段積みになりました。スタートして3ヵ月で、1時間あたりの取扱物量が、2.33M3から2.7M3に向上。トラックの積載効率も65.7%から70.7%にアップしました。
デリバリーのリードタイムも、9日から8.5日に短縮。その2年後にはさらに、7日にまで縮まりました。また、倉庫内の生産性が上がったことで、作業員の数も700〜800人から、現在は200人弱まで削減されています。

コンサルティングを経て課題が浮き彫りに
内部に入り込んで解決に取り組む

――プロジェクトは現場のコンサルティングから、徐々に4PLへ移り変わっていったとのことですが、その経緯を教えてください

コンサルティングとして改善に取り組む中で、経営やコスト面での課題が見えてきました。それらの解決は、より内部に入り込まなければ実現できないと考えたのです。
エジプトは縦社会。特に、依頼主であるB社は同族会社。「いろいろな改善をしていくには、ポジションに入った方がスムーズに進むだろう」とB社からも言われました。私自身もきちんとお客様に貢献できることを証明したいと考えていたので、B社へ出向することを決めました。

――依頼主企業ではどのような役割を担ったのですか?

物流部の統括マネージャとして、部品調達から国内配送まで一貫して任せていただきました。最初の段階では私が1人で行き、2014年に1名増員。彼はB社の組織内にあるインターナショナルロジスティクスグループのマネージャとして調達部門の仕事と、半分は当社の仕事もしていました。

――4PLで取り組んだ具体的な施策を教えてください。

実施したことは大きく2つ。ミッション・KPIの設定と落とし込み。それに、物流コストの削減です。
B社における物流部門のミッションと役割や物流部門が会社にどう貢献するかが、定まっていなかったので、経営陣と緊密にディスカッションすることで、整理しました。
部品の調達では、どうやって工場の生産につなげていくのかが「カギ」で、調達コストや部品の在庫日数を減らすことが物流部門の目標になります。一方で、製造では、「いかにラインを止めないようにする」がポイントとなります。部品調達の後工程である工場をお客様に見立て、彼らの満足度を向上させることを、物流部門の目標として設定しました。
また、エジプト国内での完成品については、販売部門をヒアリング。お客様から「オーダーしても全然届かない」というクレームがあがっていることが発覚し、改善が必要な部分を把握することができました。

PLで取り組んだ具体的な施策

――それに基づいてKPIを設定したということですね?

はい。土台がなかったので、まずそこからでした。エジプトでは、セクショナリズムが強いという慣習があります。例えば、調達部門は発注書を発行したらそれで終わり。「あとは船積み部門と通関部門の仕事で、自分には関係がない」というスタンスです。その意識を変えるために「調達部門の仕事は、発注書の発行から工場着まで」というミッションにして、調達部門の中に船積みや通関の役割を入れました。

――物流コスト削減の施策は、どのようなものですか?

船会社に対して、海上輸送運賃の交渉を行いました。
B社製品の部品は、東南アジアから輸入をしているのですが、その量は年間でコンテナ1万本分。1万本というのは、家電では圧倒的に多い物量で、かなりの輸送費がかかっていました。エジプトでナンバー1の物量です。当社が現在グローバルで扱っているコンテナは年間約5〜6万本。そこにB社の物量を上乗せすることで、バーゲニング効果を得ようと考えました。
交渉の末、少しずつコラボレーションを進めることに成功しています。取り扱いの多いタイ発の貨物からスタートして、5ヵ月で167本の実績。当社とB社にはコンテナ1本あたり数百ドルの差額があったため、その差額を埋めるなどの取り組みで、総額数万ドルの削減につながりました。

――依頼主企業からは、どのような声がありましたか?

一番喜ばれたのは、結果が数字で見られることですね。これまでは改善策を実施しても、何がどう改善され、経営にどう影響したのかがわかりませんでした。数字を意識しない施策展開が主流であったため、物差しとなるものがなかったのです。現状からベースとなる数字を設定して、マネージャ陣には、その数字がどう変化したかを報告するようにお願いしました。もともと感覚でしかなかったものを、見える化したのです。
これらの施策を導入した場合、2ヵ月後には倉庫で働く人員の削減が何百人規模でできるようになります。しかし、失業率の高いエジプトでは、簡単に従業員を解雇することはできません。では、その従業員達をどうするか…。考えた結果、「工場の生産量の変動に対応できる人を集めた、橋渡し役的な部署を作ってはどうか」と提案させていただきました。
当時は、目の前の課題をどう解決するか?しか考えていませんでしたが、今まで培ってきた経験から導き出せたアイデアかもしれません。

――様々な引き出しがないとできない動きですよね。幅広い見識はどのように養ったのですか?

私の場合は、東芝グループの家電製造・販売会社の物流部門に出向していた時期があり、当社が蓄積してきた知見を受け継いでいました。
そのプロジェクトのミッションは、物流コスト削減と事業拡大によりプロフィットを獲得していくこと。物流コスト削減とはつまり、当社に対しての支払額をいかに縮小できるか?に直結します。しかし、物流コスト削減こそが、東芝グループへの貢献であり、グループ企業以外のお客様に対しても提供すべき価値です。
そのミッションをいかに達成していくか?を試行錯誤の末、事業計画に入り込むことによってより大きな改善ができることに気づきました。現場での経験、そしてロジスティクスからの視点でお客様のことを考えた経験が、エジプトでのプロジェクトでも大きく役立ちました。

幅広い見識はどのように養ったのですか?

――依頼主企業に駐在する上で心がけていたことはありますか?

エジプトに限ったことではなく、会社が変われば風土や仕事の進め方も違う。東芝グループの文化にもお客様企業にも、それぞれ良い部分と悪い部分があるので、それを理解した上で、できる限り最良の方法を選んでいます。そして当社のやり方を採用するのであれば「こういう進め方をした方、メリットが大きい」と、きちんと説明して進めていきます。
もう1つは、個人的に意識していることなのですが、私の好きな格言に「3つの目」というものがあります。全体を俯瞰して見る「鳥の目」、細かなところまで見る「蟻の目」、流れを読む「魚の目」。その時の立場や、タイミングに合った目で見るようにしています。
今回のプロジェクトでは、戦略を立てたり、ミッションを与えたりする部分は「鳥の目」。パレット導入などは「蟻の目」です。パレットのサイズや仕様は様々。「3段積むためには、パレットの高さは何cmにすべきか」など、「蟻の目」で細かいところまで見て進めました。これは、現場経験があったからこそできたことだと思います。私が抜けても対応ができるように、エジプトのマネージャ陣にも「蟻の目」を共有しました。

――今後も4PLに精通したスペシャリストの育成に期待がかかりますね。

まだ、人材育成する立場にはないのですが、現在担当している別のプロジェクトには、かつての私と同じような仕事をしている若手メンバーがいます。私が4PLプロジェクトで学ばせていただいたことや身につけた考え方を、彼らに伝えていきたいですね。

課題解決アプローチ

  • POINT 1

    "日本流"
    物流スキーム導入

    日本流物流スキーム導入

    5Sやフォークリフトの導入、保管効率の改善など、日本の物流スキームを海外の倉庫に導入し、格納効率とリードタイムを改善。

  • POINT 2

    KPIの
    設定

    KPIの設定

    物流部門のミッションと役割を再定義し、KPIを導入。部門横断型の協力体制を構築。

  • POINT 3

    コンテナ輸送費の
    削減

    コンテナ輸送費の削減

    東芝ロジスティクスの取り扱いコンテナに、お客様のコンテナを上積みし、バーゲニング効果による運賃交渉。

坪倉正和

SPECIALIST PROFILE

4PLスペシャリスト プロフィール

東芝ロジスティクス株式会社
プラットフォーム事業部 Sロジ
参事 坪倉 正和

参画プロジェクト

輸送モード変更(路線便化)
コンテナ直送推進、中日一貫ロジスティクス高度化
中国国内ロジスティクスの再設計と業務受託推進
B社物流コンサルティングと国際間輸送受託

趣味

野球・サッカーなどのスポーツ観戦、旅行(2019年7月現在)

聞き手:前川 有香(株式会社GIG)