放射線を知る
個人の被ばく線量管理の実例
個人被ばく管理の目的は、当コラムの「放射線管理とは」の項でご紹介したとおり、個人の被ばく線量を測定・評価して、その量が法令などに定める限度値を超えないことを確認し、法令に則り記録・保存することです。
個人被ばく線量管理の実例として、個人被ばく線量の測定例、放射線業務従事者の個人被ばく線量や放射線電離健康診断記録等を一元管理する放射線管理システム、放射線業務従事者の一生の線量管理について、説明します。
■個人被ばく線量の測定例
個人被ばくのうち、外部被ばく線量(身体に入射する放射線の量)を測定評価するために、個人線量計の着用が義務付けられていま す。個人線量計の一例として、ルミネスバッジについて説明します。
ルミネスバッジとは、一定期間着用し、その期間に受けた線量を測定・評価するものです。ルミネスバッジは、実効線量、皮膚等価線量、水晶体等価線量を評価します。当コラムの「放射線の被ばくと放射線防護」の項で「実効線量」と「等価線量」をご紹介したとおり、皮膚・水晶体の等価線量は、放射線加重係数に吸収線量を掛けて算出します。実効線量は、組織加重係数を組織や臓器ごとの等価線量に掛け、その総和をとって算出したものです。
体幹部全体が均等に放射線を受ける場合、男性または妊娠する可能性がないと診断された女性はルミネスバッジを胸部、女性は腹部に装着します。ただし、体幹部全体が均等に放射線を受けない場合(ビーム状の放射線等により被ばくする作業や、強力で小さな線源を手先で取り扱う場合など)は体の特定部位が特異的に被ばくします。
このような場合は、上記の胸部、腹部に加えて特異的に被ばくする部位にもルミネスバッジ等の個人線量計を装着します。
■放射線管理システム
個人線量計(ルミネスバッジ)測定結果などから得られた個人被ばく線量や、放射線電離健康診断記録、受講した放射線防護教育等の記録の情報など、放射線業務従事者ひとりひとりにかかる情報は多くあります。それらの情報について、事業者は放射線個人管理台帳を作成し、長期間保存する義務があります。
そのため、管理対象規模が多い事業所などでは、管理するためのシステムとして放射線管理システムを用いる場合があります。放射線管理システムとは、放射線業務従事者の情報を名寄せで集約し、情報を一元管理するシステムです。
情報が集約されることで、被ばく線量が法令に基づく限度値を超えていないことの確認や、情報の記録・保存が容易になります。システムによっては個人線量通知を出力する機能があります。
■放射線業務従事者の一生の線量管理
当コラムの「放射線防護の三原則」項のうち「線量限度の適用の原則」でご説明した通り、放射線業務従事者の個人被ばく線量には線量限度が定められており、個人毎に従事期間の被ばく線量を集計することが必要です。
複数の施設で従事した場合は、各施設での被ばく線量を合算して集計することが必要です。
また、新たな施設に従事する場合は、被ばく前歴として上記の合算された線量を確認・把握して、法令限度値を超えない管理を行います。施設での従事を解除する際は、それまでの被ばく線量情報や電離放射線健康診断受診歴等を本人に通知し、次の従事施設でも同様に線量管理が行われます。このようにして放射線業務従事者の一生の線量管理が行われていきます。