放射線を知る
シンチレーション式検出器
シンチレーション式検出器 微弱な光とは、どの程度なのか?
「サーベイメータの種類」でも紹介した通り、放射線の量(ガンマ線)を測定するサーベイメータとしてNaI(Tl)シンチレーション式サーベイメータが使われるとともに、放射能の量(アルファ線)を測定するサーベイメータとしてZnS(Ag)シンチレーション式サーベイメータが使われています。
両者に共通するキーワード「シンチレーション」とは「光(可視光)を発する現象」を意味しており、放射線計測分野では、このときの光を「蛍光」と呼んでいます。すなわち、放射線と反応すると微弱な光を放出する素材である「シンチレータ」を検出素子として利用した検出器をシンチレーション式検出器と呼び、得られた光を電気信号に変えて計測する測定器(サーベイメータ)をシンチレーション式サーベイメータと呼びます。
放射線計測に関する資料では、シンチレーション式検出器の動作について、「放射線によって励起された物質が基底状態に戻る際に生じた微弱な光は、光電子増倍管の光電面で電子に変換されたのち、多段のダイノードにより増幅、電気信号として~」のように紹介されています。資料によってはシンチレータの種類や、基底状態だけでなく低励起状態への遷移でも光を生じること、あるいは後段の電子回路についての言及があるかもしれません。
ところで、動作の説明にある「微弱な光」とは、どの程度の明るさなのでしょうか。
放射線計測ハンドブック*1によると、シンチレータが放射線のエネルギーを吸収した際に発生する光子数の割合を示す絶対光収率について、ヨウ化ナトリウム(NaI(Tl))については38000[光子/MeV]*2、ヨウ化セシウム(CsI(Tl))については65000[光子/MeV]という値が挙げられています。なお、シンチレータにより発生する光子は波長が異なり、NaI(Tl)は波長が415[nm]であるため紫色、CsI(Tl)は波長が540[nm]であるため緑色の光が観測されます。
*1 GLENN F.KNOLL著 酒井英次・木村逸郎 訳.放射線計測ハンドブック(第3版).
日刊工業新聞社.2001.265p
*2 シンチレータに1MeVのエネルギーが付与された場合の光子発生数
1つのケースとして光子の数は分かったものの、多くの人にとって104個の光子の姿をイメージするのは困難でしょう。もう少しイメージを具体化するため、光(明るさ)について考えてみます。
光(明るさ)を示す単位にはカンデラ(光度)、ルーメン(光束)、ルクス(照度)などがありますが、このうち、カンデラ[cd]は特定方向に対する光の強さを表し、1カンデラは540[THz]の光を1/683[W/sr]で放出する光源と定義されています。また、ルーメンは光源から放出される光を全て足し合わせたものであり、1カンデラの光源から1ステラジアン(4パイ方向)に光が放出された場合の光の総量が1ルーメンと定義されています。

ここで、光に関する仕事量と波長が示されたこと、明るさについては光の波長も影響しますが、カンデラの定義にある540[THz]の波長は約555[nm]でありCsI(Tl)の発する光の波長540[nm]に近いことから、波長違いによる明るさへの影響を一旦無視してCsI(Tl)の光について考えることにします。
波長540[nm]の光子1個のエネルギーは、プランク定数と光速度から約3.68E-19[J]になるため、CsI(Tl)対し、1秒毎に100MeVのエネルギーが付与された場合、1秒毎に650万個の光子が生じることから、2.39E-12[J/s]、すなわち2.39E-12[W]の光が生じます。
一方、1ステラジアンへ光が放出される場合、定義から1カンデラ[cd]の仕事量は約1.46E-3[W]となるため、前記条件である光子の仕事量2.39E-12[W]から約1.63E-9[cd]、すなわち約1.6ナノカンデラの光源ということになります。
ナノは1億分の1を示すSI接頭語ですが、1億分の1カンデラの光といわれても、やはりイメージが付かないかもしれません。ここで、我々の環境で微弱な光の代表といえる星の光を考えてみましょう。
星の明るさは一般に見かけの明るさで示され、明るいほど数字は小さくなり、5等級の差で100倍明るさが変わります。太陽の見かけの明るさは約-27等級であり、冥王星の見かけの明るさが約+14等級であるため、約40等級差があることになり、これは100,000,000倍(1億倍)明るさが異なることになります。
カンデラという単位は、もとは基準となるロウソク1本の明るさです。ロウソクの大きさも色々ありますが、ロウソク1本の光を太陽と考えたとき、冥王星の光(反射光)という肉眼では到底見えない光より更に暗い光がシンチレーションによる光ということになります。シンチレーションによる光が、極めて微弱な光であることがイメージできたでしょうか。

(※CsI(Tl)対し、1秒毎に100MeVのエネルギーが付与された場合)